「在宅医として、終末期の手前のケアの必要性を感じながら、何の提案もしてこなかったことを悔いています。私と同様に比較的穏やかに過ごしているステージ4のがん患者さんたちも、先々には急速に身体が衰える不安を抱えている。やりたいことをどこまでできるかといった不安もあり、精神的、社会的な苦痛が強い。私は標準治療としての抗がん剤治療はやめましたが、別に早く死にたいわけじゃない。その時が来るまで、ケアの空白の改善に取り組むことが、今の私の役割だと考えました」
その一つとして、山崎さんは、がんと少しでも長く穏やかに共存可能な方法を探っているという。糖尿病治療薬や既存の食事療法などを組み合わせた方法で、臨床試験も計画している。
「患者が食事療法や代替療法を取り入れれば、『あんなエビデンスのないものを』とがん治療医に一蹴されてしまう。高額な費用負担が求められることが多いのも現実。ならば、少しでもエビデンスのある方法を自分なりに作ろうと思ったんです。臨床試験がうまくいくかはわかりません。でも、患者が前向きにがんと共存して暮らすには、筋の通った手だてが必要です」
■医療から見捨てられ感
少子高齢化で医療資源が限られる中、緩和ケアの「地域移行」も課題だ。在宅医で祐ホームクリニック理事長の武藤真祐さんは、入院や通院が困難になった段階で、急に地域のかかりつけ医や在宅医に引き継がれるケースも多いと指摘する。
「がんの治療医から『終診です』と告げられ途方に暮れる患者が、セットメニューのように『次の療養場所をどうしますか』と心積もりを問われる。バタバタと在宅医につながってくる。患者さんたちが、医療から『見捨てられ感』を払拭(ふっしょく)して安心して次の療養場所で過ごすには、本来は病院で十分な時間をとり、患者が納得の上で療養場所を考えていくプロセスを持つことが理想です。でも、病院はあまりにも忙しすぎる。さらに、緩和ケアがしっかりできる在宅医って、まだ少ないんです。在宅医のスキルの底上げも欠かせません」