撮り鉄ブームが続く。11月20日、近鉄特急12200系のラストランに近鉄賢島駅(三重県志摩市)のホームはカメラを持った人であふれた
撮り鉄ブームが続く。11月20日、近鉄特急12200系のラストランに近鉄賢島駅(三重県志摩市)のホームはカメラを持った人であふれた

 カメラを手にした鉄道ファン「撮り鉄」によるトラブルがまた起きた。マナー違反が問題視され続けながら、減る気配はない。その背景は──。AERA2021年12月13日号の記事を紹介する。

【写真】1月、駅のホームで「罵声大会」となった現場はこちら

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 以前から本誌が報じている撮り鉄のマナー問題。解消するどころか、一向に改善しない。

「いいから、どけ!」

 11月23日午前9時半ごろ、さいたま市内を走るJR武蔵野線の東浦和駅近く。長く伸ばした三脚を手に、脚立の上に立った男が大声で怒鳴った。

 場所は、鉄道写真の撮影を趣味とするいわゆる「撮り鉄」の間では知られた写真撮影スポット。この日、国鉄時代の機関車が貨物を牽引(けんいん)して走るため、複数の撮り鉄が集合したのだ。

■パトカーが出動の事態

「事件」が起きたのはそんな時。怒鳴った男性に対し、前方にいた撮り鉄の男性が「自分勝手なこと言ってんじゃないよ!」といさめた。すると、怒鳴った男性は「てめえは関係ないだろ!!」と言い、手で払った三脚が男性の顔を直撃した。この様子を撮影した動画がインターネット上で拡散した。

 所轄の埼玉県警浦和東署によれば、現場は騒然となり、パトカーが出動する事態にまでなったという。三脚をぶつけたのは30代の男性。一方、顔に当たった男性は目のあたりに軽いけがをした。だが、男性はわざと三脚をぶつけようとした意図はなく、興奮して思わず三脚を払いのける形になったと謝罪。被害者の男性にも処罰感情がないことから、同署は事件としての立件は見送ったという。

 11月上旬には、大阪市内を走る京阪電鉄の線路内に立ち入ったとして、撮り鉄の少年(19)が鉄道営業法違反の疑いで大阪家裁に書類送致された。新聞報道などによると、少年は、

「いい写真を撮りたかった」

 と容疑を認めているという。

■資料性や記録性を重視

 それにしても、ここまでモラルハザード(倫理の崩壊)が起きるのはなぜか。

 撮り鉄の心理は、「いい写真を撮りたい」に尽きる。だが、鉄道に詳しいライターの小林拓矢さんは、撮り鉄と撮り鉄以外のカメラマンが考える「いい写真」は価値観が異なると語る。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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