小図3図を接合した伊能図の画像 ゼンリンミュージアム蔵
小図3図を接合した伊能図の画像 ゼンリンミュージアム蔵

 徳島大学名誉教授で伊能図の研究をする平井松午さんが語る。

「伊能図は測量した地点のポイントを清書するために下に置いた紙に写し取る。そのために針で穴をあけるのですが、0.2ミリほどの針穴が1~2ミリの間隔であけられているほど緻密なのです。徳島大学附属図書館伊能図学習システムでは、その針穴を閲覧できます」

 同システムでは針穴のほか、現代地図や空撮画像との比較や重ね合わせての閲覧が可能。それを見ると現代地図とほとんど違わず、伊能図がいかに正確であるかがわかる。

「伊能図は、大図(縮尺3万6千分の1)214枚、中図(縮尺21万6千分の1)8枚、小図(縮尺43万2千分の1)3枚と三つのサイズの地図からなります。これらの地図は、測量下図を何度もつなぎあわせて幕府上呈図(清図)が作製されています。その過程を想像するだけでも楽しいですね」

 最新の技術で地図を製作している「ゼンリン」は伊能図をどう見ているのだろう。

「根気強さ、几帳面さ、体力、精神力……すべてを結集させてできたのが伊能図です。物事を成し遂げるとは、どういうことかを表現したのが伊能図だと思います」とはゼンリンミュージアムの学芸員の新井啓太さん。

 伊能図は正確さ、緻密さだけでなく、先見性もあると館長の佐藤渉さんは強調した。

「伊能図が作られる前までは絵図で、相対的な地図でした。どのあたりに川があったりお寺があったりするか、距離的に多少違っても目安でわかればよかったのです。一方、現代においては、人が読む地図から機械が読む地図への変化の中で、より正確な地図が求められます。そういう意味では伊能忠敬が求めていたものが、200年経った今もまた求められているのでしょうね」

(本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2021年12月17日号

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