『朱黒の仁』という、真田幸村の生涯を描いた作品を過去に描いていますが、日本の歴史漫画と比べると、西洋を舞台にした『魔女をまもる。』は当然ながら読者が日本人ですから、文化や教養の差、その時代の一般常識的なことを伝えるのにさらに工夫が必要だと思いました。現代日本人に伝わりやすく、イメージしやすい言葉を選択するのもその工夫のひとつでした。
作画に関しては、舞台が日本でも西洋でもそんなに変わらないですかね。ただ資料についてはどちらも時代によっては調べにくい状況になったりします。そういう意味では西洋の16世紀は中世と近世の転換期に当たるので、大変面倒な時代でした。
■甘い薬を苦い薬にした医師、ヴァイヤー
――作品では、主人公の医師ヨーハン・ヴァイヤーが、魔女狩りで捕らえられた人々を救おうと、自分の持てる知識を使って民衆に訴え、時には教会とも闘う人物として描かれています。実在した人物を漫画のキャラクターとして成立させるコツは?
主人公のヴァイヤーは、実は一番オリジナル色の強いキャラです。調べた当初にはすでに作品のテーマなどはできあがっていたのですが、彼の性格については文献を調べてもあまり書かれていなかったので、テーマに合わせてキャラ付けがされて、ネーム(絵コンテ)ができあがっていったという感じです。
私は以前からオリジナルのキャラに関しては道筋がまずあって、ネームで勝手に動いてもらうパターンで描いているので、キャラの性格付けリストなんてものがないんです。でも歴史上の人物だと性格が判明していたりするので、ヴァイヤーの師匠であるハインリヒ・コルネリウス・アグリッパなどはそのままを描いていたつもりです。
最終的に調べ続けていて、ヴァイヤーのモットーが「自身を克服する」といったことだと知ったときはテーマと合っていたんだなと安堵しました。
また実際のヴァイヤーは本当にお医者さんとして色々な病気を研究して治しています。漫画にもありましたが甘い薬を苦い薬にしたのもヴァイヤーですし、常識にとらわれない考えを持った優秀な人だったんだろうなと思います。そういう人だったので、精神障害という見立てができたのではないでしょうか。