大きなミスをした試合のあとは、言葉少なになる選手は多い。しかし、羽生はこの大会直後、自分のことを分析し、いったい何が起こったのかをたっぷり話した。強さや良い面だけでなく、弱さや失敗したときも、それを隠さず共有してくれる選手なのだ。もちろん、失敗は好きではないという。しかし、言葉にすることで、課題が明確になるのだという。
この大会で演技が乱れたのは、自分が他の選手のことばかりを気にして、演技そのものに集中できていなかったからだと解説した。
「(直前にあった)スケートアメリカで町田樹選手と高橋大輔選手を見て、表現が大事なんだと思いました。2人はすごいと心から思い、何とかしなきゃと思いました」
「町田選手、高橋選手の演技を見て、壁を押しつけられたんです。それを乗り越えないといけない」
「今までジャンプにフォーカスしていたけど、表現、スケーティング、ステップにもフォーカスしていきたい」
いろんな面でもっとレベルを高めないと、戦っていけないと焦ってしまった状態で演技に入ってしまった。だから、「ジャンプもスケーティングも表現も、中途半端になった」のだという。
語ることで課題を整理する。その言葉通り、ソチ五輪では心の整え方をしっかり修正してきた。
SPでは世界で初めて100点を超える得点を出した。フリーではミスがあったが、羽生を追うチャンら他の選手にもミスが出て、五輪初出場の19歳が金メダルをつかんだ。
このとき、どんな精神状態でSPに臨んだのかと聞くと、羽生はこう答えた。
「足が震えていた。(男子個人の前にあった)団体戦とは比べものにならなかった」
「すごい緊張しました」
一方で、こうも言った。
「ただ試合をこなす感覚だった」
「とにかくいい気持ちで。どう表現すればいいか分からないが、前向きだとか、そういうものをとにかく大事にしようと、そういう気持ちに心の状態を傾けようとすごく意識していました」
「心と体の一体が、すごく大事だったと思う」
五輪の重圧を感じながらも、自分のやるべきことにフォーカスすることができたということだろう。シーズン序盤のスケートカナダで、余計なことばかりを考えて集中できずにミスを重ねたという分析と反省が、ソチの金メダル獲得に生きたのだと思う。
(朝日新聞スポーツ部・後藤太輔)