ロバート・ビロット弁護士

――その結果、汚染物質を突き止めたのですね。

「有機フッ素化合物のPFOAという物質です。デュポンは焦げつき防止のプライパンの製造に使ったPFOAを棄てていた。その記録を見つけたのです。ちなみに、沖縄の米軍基地による汚染でも知られているPFOSもそ有機フッ素化合物の一種です」

 ――法廷で闘いながら、流域住民の健康調査の実施と費用負担をデュポンに認めさせました。

「血液中に蓄積された有機フッ素化合物と病気との因果関係を探る調査ですが、7万人という過去に例のない規模だったこともあり、結論が出るまで7年かかりました。それは、腎臓がん、精巣がん、潰瘍性大腸炎など六つの病気とPFOAの関連がありうる、とするものでした。それが2011年のことです」

 ――その後、3次にわたる集団訴訟を起こし、デュポン側から少なくとも約760億円を勝ち取ったのですね。

「でもまだ、この問題は解決したわけではありません。有機フッ素化合物が含まれる泡消火剤を使っていた消防士や、汚染された水に触れていた水道事業者など、訴訟は全米に広がっています」

 ――映画の終盤に印象的なシーンがあります。法廷で、裁判長から「まだ(原告代理人の席に)いるんですね」と声をかけられると、立ち上がった弁護士はこう答えます。「ええ、いまも」と。映画で描かれたとおり、20年以上たっても、闘いはまだ終わっていないのですね。

「PFOAとPFOSは規制されましたが、有機フッ素化合物は6000種類にのぼるとも言われています。焦げつき防止フライパンだけでなく、防水スプレーやレインコート、ハンバーガーの包装紙、さらには半導体や自動車製造の過程、そして泡消火剤などにも含まれています。アメリカの一企業の話でも過去の話でもない、ということを知ってほしいですね」

 ――東京でも汚染は確認されています。

「沖縄の米軍基地や大阪のダイキン工業の工場だけでなく、じつは、静岡・清水にあったデュポンの工場でもかつて工場労働者の血液から高濃度で検出されていたのです」

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