クラシックロックの愛猫家といえば、なんといってもクイーンのリード・シンガー、フレディ・マーキュリーだ。1991年に亡くなるまで、彼のかたわらには、トム、ジェリー、ミコ、リリー、ロメオ、オスカー、ティファニー、ドロシー、ゴライアス、デライラと、愛猫の姿があった。
なかでもミケ猫のデライラは大のお気に入り。生前に発表された最後のオリジナルアルバム「イニュエンドウ」には、フレディの猫愛がたっぷり詰まった「愛しきデライラ」という曲が収録されている。ミコの名前は、日本を愛したフレディらしく、巫女(みこ)が由来とも。
大ヒットした映画「ボヘミアン・ラプソディ」でも、猫は重要なキャラクターだった。ライブ・エイドに向かうフレディを窓越しに見送ったり、ピアノの鍵盤の上を駆け抜けたり、フレディが電話越しに愛猫に話しかけたり──。その描写は、クイーンファンにも評価が高かった。
「フレディは猫の化身じゃないかな」と話すのは、フレディとフレディ似の猫を組み合わせた写真集『ボヘミニャン・ラプソディ』(シンコーミュージック・エンタテイメント)を編集した西村浩一さん(55)だ。
シンコーミュージックは、クイーンと日本の縁を深めた出版社であり、多数の関連本を発行している。西村さんは、来日公演の記録を網羅した『クイーン ライヴ・ツアー・イン・ジャパン』の編集中、膨大なフレディの写真を選別しながら、しなやかに歌うフレディに猫の姿を重ねて見ていた。西村さんも子どものころから大の猫好き。今はブリティッシュショートヘアのメス猫ラヴィちゃん(10歳)と暮らす。
「口元にチョビヒゲのような黒い毛がある猫は、見た目がフレディに似ていますし、他の毛色の猫も、跳びはねている姿や表情に、フレディと通じるものを感じます」
西村さんはインスタグラムでフレディに似ている猫の写真を検索。フレディの写真と並べてマッチングテストし、とくに似ている写真を選び抜いて写真集を作った。掲載許可をもらうため連絡した飼い主たちは、フレディの猫好きを知っている人も多く、快く協力してくれたという。
「クイーンにはイギリス人らしいユーモアに富んだ曲も少なくありません。くすっと笑えて、気持ちを和ませる猫の写真集も彼ららしいんじゃないかなと思うんです」(ライター・角田奈穂子)
※週刊朝日 2021年12月31日号