被疑者死亡により、動機は永遠に謎のままとなった。だが、謎を解くヒントになる資料をAERAdotは入手している。既報したように、谷本容疑者は長男の頭部などを包丁で切りつけるという殺人未遂事件を2011年4月に起こし、実刑判決を受けていた。入手した判決資料によると、今回の事件を彷彿とさせる動機が記されていた。

<谷本容疑者は離婚後、家族と離れて一人暮らしをするようになったが、寂しさに耐えかねて、2009年9月ごろに元妻に復縁を申し込んだが、断られた。孤独感などから自殺を考えるようになった。しかし、死ぬのが怖くてなかなか自殺に踏み切れなかった。そのため、誰かを殺せば、死ねるのではないか、元妻に迷惑をかけている長男を殺そう、家族一緒でなければならないから、元妻や次男も道連れにしようなどと思うようになった>(判決文より抜粋)

 谷本容疑者の自宅には19年7月に起こった京都アニメーション放火殺人事件の資料が残されていた。青葉真司被告(43)も重篤な容態だったが、懸命の治療の末に回復し、起訴された。

「谷本容疑者と青葉被告の大きな違いは2つ。青葉被告は事件当時41歳とまだ、若く、体力があった。そして犯行後、青葉被告は走って逃走を図り、重症の原因は火傷だった。しかし、谷本容疑者は61歳と高齢で、火傷より一酸化炭素中毒で重体となり、意識も戻らなかった。救命できたとしても、脳機能に深刻な後遺症が残り、起訴は難しかったと思う」(前出の捜査関係者)

 事件に巻き込まれ、心療内科クリニックの西沢弘太郎院長(49)や病院スタッフ、患者ら24人の尊い命が奪われた。クリニックに通っていた患者はこう語る。

「西沢先生のような、やさしい先生の病院になぜ、放火したのか、知りたかった。谷本容疑者が死亡して、事件の真相が闇に葬られるかもしれないと思うと、より悲しくなります」

(AERAdot.編集部 今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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