直接の契機は、昨年1月6日に起きた、連邦議会襲撃事件だ。これは、大統領選挙で敗れたトランプ大統領(当時)の「大規模な不正があった」という根拠のない主張に呼応した支持者たちが、議事堂になだれ込んだものだ。
立法府という民主主義の中枢が自国民によって襲撃されたこの事件は、米国民に大きな衝撃を与えた。
その後、世界各地の内戦を分析して、米国で内戦が起きる可能性に警鐘を鳴らした、カリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者バーバラ・ウォルター氏の著書『How Civil Wars Start(内戦はどう始まるか)』が大きな反響を呼ぶなど、米国社会では「第2次内戦」の恐れが、荒唐無稽な話ではなく語られるようになっている。
11月8日の中間選挙投開票日を前に、民主、共和両党の争いが激しくなるなかで、「内戦」という言葉がネット上で急増した出来事があった。
連邦捜査局(FBI)が8月、スパイ防止法違反などの容疑で、フロリダ州のトランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴを家宅捜索し、トランプ氏が退任時に持ち去った機密文書を押収した。これに対してトランプ氏や支持者が強く反発し、支持者の間で人気があるGab、Telegram、Truth SocialといったSNSでは、「弾を込めろ」「内戦」といった言葉が急増したという。武装した男がオハイオ州のFBI事務所に侵入しようとし、射殺される事件も起きた。
調査会社ユーガブが8月下旬に実施した世論調査では、10年以内に米国で内戦が起きる可能性について「非常にあり得る」が14%、「いくらかはあり得る」が29%で、合計43%に達した。特に、「強固な共和党支持」と答えた人の中では、「内戦はあり得る」という答えは54%にのぼった。
(朝日新聞国際発信部次長[前ワシントン特派員]・大島隆)
※AERA 2022年10月31日号より抜粋