行き場を失った熱量は、さまようことすらできず、ずっとマグマのように蓄積していくばかり。それが突然、29年ぶりに歌い演奏する4人の姿が目の前に現れたわけですから、喜びや興奮はあっても、ただ「懐かしい」「あの頃が蘇る」とはなりません。どちらかというと「私は今どこにいるの?」「ここは2022年だよ」なんて台詞が聞こえてきそうなSFの世界。ライブの終盤、高橋和也さんが放った「今の時代じゃ俺たちみたいなのを“イケオジ”って言うんだぜ? 知ってた?」というひと言に、30年前の魂が今の自分の肉体を借りて2022年に来ているのだということをより実感させられました。
そんな不思議な感覚の中で観たライブでしたが、本当は私の知らないところで、29年間ずっと音を鳴らし続けていたのではと思うぐらい、ベテランバンド然とした熟し方をしていて素晴らしかった。何よりも、これで「ぶつ切りのままになっていた青春」が、やっと成仏できるなと思えたステージでした。次は「懐かしさ」を求めてもう一度観に行きたいと思っています。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2022年11月4日号