元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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報道によれば、高騰する電気代・ガス代から国民の暮らしを守るために政府がお金を出すそうである。早い話が、国が我らの光熱費の一部を払ってくれるというわけ。
誠にありがたいお話である。他の様々なモノも次々と値上がりする中で、深刻な打撃を受けている人も少なからずおられよう。ただ唯一の問題は、そのお金を払うのは一体誰かということだ。
国が払うってことは、もとは我らが納めた税金。我らが納めたお金が我らに配られる……? 何のありがたみもないじゃん。でも大丈夫! お国は「打ち出の小槌」を手にしているのだ。サッと振りさえすれば何でも思い通りのものが出てくる魔法の道具。それは借金である。国が抱える借金は対GDP比ですでに世界一だが、国は毎年毎年なんだかんだと新たな借金を積み増し続けている。
これ、返せるの? っていうか、返す気があるのか? っていうか、どう考えても返す気ないよね?
だって今のキナ臭い世界を見れば、これからも我らは予期せぬ災害・疫病・紛争に見舞われ続けると考えるのがフツウだろう。大元の原因は我ら自身の欲望なのだから簡単にこの状況が変わるはずもない。昨日と同じ暮らしが明日も続く時代は終わったのだ。なのに何かが起きるたびに借金を積み増していたら、永遠に借金を続けることになる。
永遠に借金するということは、将来世代への永遠のツケ回しに他ならない。で、それに加担しているのは我ら全員である。どう考えても人として褒められたことではない。お天道さまがいたら天罰が下ること確実に思える。
で、冒頭のエネルギー価格の高騰について言えば、これからエネルギー確保がますます難しくなることを思えば、対策の王道は返すあてのない借金で永久に補助金を出すことではなく、どう考えても省エネルギー社会の構築であろう。使用量を1割減らせば1割補助金を配るのと同じ。電気代9割減を達成した身からすれば十分現実的なことに思える。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年10月31日号