安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに改めて表面化した旧統一教会問題をめぐり、議論が国会で行われている今も、被害者は苦しみ続けている。AERA 2022年10月31日号の記事を紹介する。
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旧統一教会の元信者や被害者家族らを30年以上にわたり支援する牧師の豊田通信さんは、元信者から「消えてしまいたい」と打ち明けられたことを忘れられないでいる。
「泣いて嫌がる信者を『使命だ』と説得して韓国に送り出したという方は、『脱会しても、私だけ幸せになるわけにはいかない』と厳しい表情で話してくれました。たくさんの人を勧誘してきた人ほど苦しんでしまう。2世問題もそうですが、旧統一教会は信者の思いを踏みにじってきた。うそをつき、財産を奪い、家族を壊す。許しがたい思いです」
これほどまでにつらい思いをしても、信仰から抜け出すのは容易ではない。信仰を捨てれば地獄に落ちる、先祖や家族が苦しむ……。脱会後も、そんな恐怖心がフラッシュバックすることもある。豊田さんは言う。
「脱会など考えもしていないときは、旧統一教会は愛と真理に満ちた信仰だと信じ込んでいます。ところが、やめようかという考えがよぎり始めた途端、カルト信仰の本質である『恐怖』が頭をもたげるのです」
銃撃事件後、旧統一教会問題への注目が高まっている。関係省庁の連絡会議が9月から合同の電話相談窓口を始めると、最初の5日間で1千件以上の相談が寄せられた。だが、霊感商法などがメディアに盛んに取り上げられた80~90年代とは異なり、問題に精通した専門家や相談機関が足りていない。
そんな当事者のよりどころの一つに「宗教2世の会」がある。自身もエホバの証人信者の2世で京都府立大学准教授の横道誠さんが2020年に設立した自助グループだ。横道さんは言う。
「2世問題には公助がない。ホットラインなどもあまり機能しておらず、行政のサポートもこれからというところです。こうした場で他の参加者と話すことで自分の問題を客観化できて、つらいのは自分だけではないと冷静になれ、悩みを自分なりに処理できるようになるんです」