北海道と本州をつなぐ貨物列車は道民の生活物資や道内農産物の運搬に欠かせない。しかし新幹線の区間延長予定により、並行して走る在来線の利用客減少が見込まれ、存続の危機に面している。AERA2022年10月31日号の記事を紹介する。
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崖っぷちにある鉄道貨物に危機感を強めるのが経済界だ。北海道商工会議所連合会は9月中旬、「北海道経済に深刻な影響が及びかねない」と函館-長万部間の在来線存続を求める緊急提言書を公表した。
フェリーや貨物船で輸送を代替したとしても、港から陸路を運ぶトラックは人手不足で運転手がなかなか集まらない。
物流問題にくわしい北海商科大の相浦宣徳教授は「輸送コストが増えて農産物の価格に転嫁されれば、競争力を失う道内の農業は大打撃を受ける。道産の農産品を原材料とする関東の食品工場などの収益を圧迫しかねない」と全国に影響が及ぶとみる。
JR貨物にとっても死活問題だ。廃線になれば同社の年間コンテナ輸送量1883万トンの4分の1に相当する413万トンが失われる。犬飼新社長は「道内はもちろん、全国ネットワークが崩れてしまう」と語る。
国もようやく腰をあげた。
斉藤鉄夫・国土交通相は9月20日の閣議後会見で「北海道庁やJR貨物、JR北海道と対応を検討する」と函館-長万部間の貨物網を守るために国も含め4者で協議する方針を表明した。
地元協議にゆだねるはずの並行在来線の議論に国が調整に入るのは異例だ。しかし、これで一件落着とはいきそうもない。
道南の貨物網を維持するには、JR貨物が貨物列車を運行し、線路などは国や北海道が出資する第三セクターが持つ「上下分離方式」が有力な選択肢だ。だが、国や道の負担割合をめぐっては難航が予想される。
北海道大の岸邦宏教授(交通政策)は「国も道も鉄道関連の予算は限られ、費用をどう負担するのかが大きな課題になる。全国の貨物網の中でどう位置づけるのか。まずは全体の将来像を示す必要がある」と話す。
鉄道貨物の青函ルートは別の難題も抱えている。青函トンネルとその前後は新幹線と貨物列車がレールを共用し、すれ違う際に貨物に危険が及ばないよう新幹線は速度を抑えて走行している。JR北海道は札幌と東京の間を4時間半で結ぶ目標を掲げ、実現するには高速走行が欠かせない。