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 文芸評論家の斎藤美奈子さんが本に書かれた印象的な言葉をもとに書評する「今週の名言奇言」。今回は、『三千円の使いかた』(原田ひ香、中公文庫・税込み)を取り上げる。

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■人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った。(原田ひ香『三千円の使いかた』)

 昨年の年間ベストセラー総合1位は和田秀樹『80歳の壁』。文芸書部門1位は逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』。そして文庫部門1位に輝いたのがこの本だった。原田ひ香『三千円の使いかた』。実用書みたいなタイトルだけど小説である。

 物語は3世代の女性の、主として金銭事情を描いている。

 中堅のIT関連企業に勤める御厨美帆は24歳。目黒区のマンションで一人暮らしだ。その姉の井戸真帆は29歳。証券会社に勤めていたが、消防士の夫との結婚を機に退職。今は3歳の娘を育てる専業主婦だ。

 暮らしには不満のなかった二人だが、ふとしたキッカケで現実を突きつけられる。美帆の場合は先輩女子社員(44歳)のリストラだった。今の自分は<ほんの少し歳を取れば、ぽいと放り出されるかもしれない場所にいる>。9万8千円の家賃は高すぎるのでは。手取り23万円の夫の給与でやりくりしてきた真帆は短大時代の友人の言葉に動揺する。<あの安月給の旦那で、よく仕事やめられたね>といわれた気がした。

 不安なのは娘たちだけではなかった。母の智子(55歳)は友人の離婚を機に貯蓄が大きく減っていたことに気づき、夫が死んで年金が半分近くになった祖母の琴子(73歳)は今からでも働けないかと考える。

 具体的な数字が次々出てくる。家計や月収や貯金額があからさまにされるあたりは小説といっても実用書風。具体的な処方箋も示されていて、固定費を見直せとか、月に8万貯めれば年に100万円の貯金ができるとか、どんどん生々しくなる。

 書き出しは<人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った>。<あなたたち、今日はとってもいい三千円の使い方をしたわ>とはセミナー料を正当化するファイナンシャルプランナーの言葉。ちまちました節約術を超えたプランの提示が受けたのか。すでにドラマもスタート。数日間、金のことしか考えられなくなってしまった。

週刊朝日  2023年2月3日号