AERA 2022年10月24日号より
AERA 2022年10月24日号より

 逆にみれば、北朝鮮が中国と連携する動きを強めているとも言える。北朝鮮は過去の核実験では中国の申し入れを一切無視してきたからだ。北朝鮮は9月末から中国製ワクチンの支援を受け、中朝国境地帯で新型コロナワクチンの接種も始めた。

 中国は北朝鮮の過去6回の核実験ではすべて国連安保理の制裁決議に賛成してきた。今回、もし中国が反対に回れば、北朝鮮の核開発を止めるうえで大きな支えを失うことになる。北朝鮮はロシアによるウクライナ4州併合宣言も支持した。

■「複合事態」の予感

 こうした状況は今後、東アジアで北朝鮮と中国、ロシアが同時に軍事行動を起こす「複合事態」の発生を予感させる。複数の専門家は「中国が、北朝鮮による軍事行動を積極的に支援することはないだろう。でも、台湾有事の際、日本や韓国に駐屯する米軍兵力が台湾海峡に集中する状況を受け、北朝鮮が独自に軍事行動を起こす可能性がある」と指摘する。

 また、ロシアの「対日戦勝記念日」にあたる9月3日、ロシア海軍と中国海軍が北海道西方沖の日本海で共同で洋上射撃訓練を行った。両国は最近、爆撃機による共同飛行や海軍艦艇による共同航行を日本周辺で頻繁に行うなど、軍事的な連携を強めている。

 防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は、こうした動きについて「日米安全保障体制の関心を北と南に分散させる戦略を、中ロ両国が共有している可能性を示唆している。ロシアが台湾有事に直接介入することはないだろうが、北方で別の軍事行動を起こす可能性は排除されない」と話す。

 そして第3の問題が北朝鮮自身の態度の変化だ。

 北朝鮮は2017年当時、ミサイル発射や核実験のたびに大々的に報道し、米国を非難した。米国の関心を北朝鮮に向けるためだったとみられ、翌18年には突如対話に転じ、米朝首脳会談などを行った。

 ところが、朝鮮中央通信は10日、今回の一連の軍事訓練のなかで、金正恩総書記が「我々は敵と対話する内容もなく、またその必要性も感じない」と語ったと伝えた。正恩氏は「任意の戦術核運用部隊にも戦争抑止と戦争主導権獲得のごく重大な軍事的任務を課すことができる」とも述べ、核兵器の使用に好戦的な姿勢を隠さなかった。

 北朝鮮関係筋は「米朝首脳会談までは米国の譲歩を引き出すために北朝鮮も譲歩する、行動対行動という原則を打ち出していた。今は、北朝鮮の主張する在韓米軍の撤退や核保有国としての地位の認定を得るまで、強硬路線を続けるという姿勢に転換したようにみえる」と語る。

 少なくとも、北朝鮮は米バイデン政権との交渉には魅力を感じていないようだ。金総書記は昨年1月の党大会で、超大型の核兵器開発など、国防5カ年計画(21~25年)を発表した。計画が完了するまで、米国との交渉には応じないつもりかもしれない。

 北朝鮮は今でもトランプ前米大統領の再登場を願っているとされる。少なくとも、25年1月に米国で新政権が誕生するまで、こうした強硬姿勢を続ける可能性が高まっている。(朝日新聞記者、広島大学客員教授・牧野愛博)

AERA 2022年10月24日号

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