■妊娠中に酸素吸入が必要な状態に
長女に重い障害が残ったため、息子の時は長女の主治医でもある新生児科が万全な体制をつくって下さり、出産に備えていました。その後、おなかの張りが頻繁になり入院して点滴でウテメリンを使い始めると、妊娠29週で前回と同じような肝機能障害を起こしてしまいました。
新生児科は赤ちゃんが元気なうちに出産させようとしてくれたものの、産科はギリギリまでおなかに入れておくべきだと判断し、ウテメリンのかわりにマグネシウム(ウテメリンとほぼ同作用)を使って治療を続けることになりました。でも私の身体はウテメリン以上にマグネシウムが合わず、たった数分で呼吸抑制から呼吸不全を起こし、酸素吸入が必要な状態になってしまいました。
この状態は赤ちゃんが脳性まひの原因でもある血流障害を起こす可能性があるとのことで点滴はすぐに抜かれましたが、私の身体の状態は改善せず、数日後に帝王切開で息子が生まれました。
■まひがなければ思い切りサッカーを
私の身体がマグネシウムに反応するのは想定外で、誰のせいでもありません。この時の私の呼吸不全が息子の障害に直接関わっているのかも分かりません。
でも、原因がどうであれ、息子の足が不自由という現実が変わることはなく、「もしもマグネシウムを使わずに出産していたら」という思いは、産後数年続きました。
さらに、息子は今までに何度か、「この状態で歩けているのは、生まれ持った運動神経がかなり良かったからだよ」と整形外科のドクターや理学療法士さんに言われたことがあるのですが、その時にも「もしもまひが無かったら」と思ってしまうこともありました。
そんなに運動神経が良いのなら、まひが無ければ息子は誰にも引け目を感じず、遠慮することもなく思い切りサッカーができていたのかな…と切なくなり、「まひが無ければ」と思わずにはいられませんでした。
■障害は悲しい事実だけど不幸ではない
息子本人は、今でもまだ足の不自由さをネガティブに捉えることもあるようですが、幸い友人や先生方に恵まれ、少しずつ自分の身体の状態を受け入れているようです。
障害は悲しい事実ですが、不幸ではないと気づいてくれたことが大きな進歩だと思っています。
ところで、私には長年の不妊治療をやめて子どもを持たない選択をした友人がいます。何の偏見もなく長女や息子をかわいがってくれる彼女に、「もしも妊娠して重心ちゃん(重症心身障害児)がうちに来ることになったとしても、自分の子どもに会えた方が諦めるよりずっと良かったよ」と言われたことがありました。
これはすべて「たられば」の話。
でも、限りなく真実に近いような気もしています。
※AERAオンライン限定記事