天気予報の宇宙版「宇宙天気予報」が注目されている。太陽活動の変動は、社会インフラに影響を与える可能性が指摘されている。そのリスクに備えるために、宇宙環境を観測・予測する重要性が高まっている。AERA 2022年9月12日号の記事を紹介する。
【写真】人工衛星から送られる太陽風のデータを受信するパラボラアンテナ
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燃え盛る球体が大写しされた画面の迫力に一瞬、足がすくむ。
東京都小金井市にある国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT=エヌアイシーティー)の「宇宙天気予報センター」。刻々変化する太陽表面の衛星画像のほか、太陽風や地球の磁場、電離圏の状態などを示すモニター画面が並ぶ。平日の午後、ここで「宇宙天気予報会議」が開かれている。
「黒点が浮き上がってくると、このようにピカピカ光ります。これが太陽フレアの発生のシグナルです」
会議の直前、宇宙天気予報グループの久保勇樹グループリーダーが、画面を指しながら解説してくれた。
午後2時半。10人近くのスタッフが集まり会議が始まった。
「太陽風の速度は450キロから500キロの間で推移しています」「密度は高めです」
宇宙空間をダイレクトに感じる言葉が飛び交う会議は、静かな緊張に満ちていた。
太陽の爆発現象で影響
宇宙天気予報は天気予報の「宇宙版」。地上と同様に宇宙環境も太陽の影響を大きく受けている。例えば、太陽の表面で太陽フレアと呼ばれる爆発現象が発生すると、その影響が地球周辺にまで及ぶ。太陽フレアの発生直後には、エネルギーの高い粒子が太陽から飛んできて、人工衛星に障害を起こしたり宇宙飛行士が被曝したりといった影響が出る。数日経過すると、太陽フレアに伴って放出される電気を帯びた雲のようなものが地球に到達し、地球の磁場が乱される。地球の磁場が乱されるとオーロラが見えることがあるが、一方で地磁気の変動によって地上の送電システムに誘導電流が発生して障害が起きる可能性もある。こうした人間の作ったシステムや人間に影響を与えるような宇宙環境の変動を総称して「宇宙天気」と呼んでいる。