■言葉のセンスがいい
小泉:一方で季節の行事を大切にする、という昭和ならではの良さも丁寧に描かれているから、「観終わったら、お花でも買って帰ろうかな」「ススキでも買おうかな」とか、そんなふうに憧れちゃってもいいのかな、とも思う。
小林:ははは(笑)。いいね。
小泉:ちょうど、若い世代にレトロブームが来ているから、衣装も「可愛い」なんて思ってもらえるのではないかな。
──繰り返しドラマ化、映画化されるなど、向田作品が時代を超え、支持されるのはなぜだろう。
小泉:この脚本で言えば、四姉妹を中心に描いてはいるものの、男性の描き方も本当にうまいと思う。「こういう男性、いるな」という感じがありながらも、男の人たちが全員、憎めないキャラクターになっている。向田さんの成熟したものの見方というものは、他の作品でも感じられて、「(男性に対して)ちょっと悔しいから、細い針をさしちゃおうかな」というくらいの感覚なんじゃないかな。言葉の表現の面白さや美しさは、どの作品にも感じます。
小林:ドロドロした部分であっても、向田さんの言葉のセンスがすごくいいから。
小泉:そう、センスだね。
小林:泥臭くなく、でも人の心に染みる。「うわ、痛いところを触ってきた」というくらいの感覚で、嫌味なく描かれている。
小泉:それに一見、物語にはしづらいところを選んで物語にしていますよね。「阿修羅のごとく」がドラマ化された1979年当時もホームドラマはたくさんあって、幸せで微笑ましい物語も多かったけれど、一番ドラマが起こらなそうな場所にドラマを起こしている。でも、実際に日常で起こることって、そういうものかもしれない、と多くの人が感じていることが普遍性に繋がっているのかもしれない。
小林:そう、センスよくストレートなところがあるね。
小泉:人間に対する深い愛情が感じられて、いい意味で男性の嫌な部分を描いてはいないよね。ちゃんと、尊重も尊敬も感じられる。「男性をやっつけよう」とはしていないんじゃないかな。