テレビに映る料理からにおいが香り立つ。そんな未来の技術がもうすぐ実現するかもしれない。
仮想現実空間を楽しむメタバースなど、最新技術は新しい音や映像の体験を提供してきた。次に注目を集めている分野がにおいのデジタル化だ。
視覚や聴覚は光や音といった物理的な作用で定量的にデータとして表現できるが、嗅覚のにおいは化学的な作用ではその成分の種類も莫大な数となり、データとしてデジタル化することはこれまで困難とされてきた。
その壁を独自の方法で乗り越えることに成功したのが、2017年に創業した大阪大発のベンチャー企業「香味醗酵」(大阪市)だ。代表取締役の久保賢治氏はその技術をこう解説する。
「人間の嗅覚が感じるにおいの成分は約40万種類あり、それら全てを感じるにおいセンサーを開発することは不可能でした。一方で人間は約400種類の嗅覚受容体だけで可能にしているので、同受容体を基準として、人間の嗅覚を再現できるセンサーを開発すればいいと考えたのです」
同社は嗅覚受容体を発現した細胞をスライドガラスに格子状に並べ人工の鼻を再現。そこににおいの成分を振りかけ、どの細胞がどれくらいの強さで反応したのか蛍光センサーで計測し、これまでに人間が感じる全てのにおいについて400種類の嗅覚受容体の反応強度をデジタルで表現することに成功した。