復学しても周囲とのコミュニケーションの取り方がわからず、ベランダが「坪倉専用」に(写真:坪倉さん提供)
復学しても周囲とのコミュニケーションの取り方がわからず、ベランダが「坪倉専用」に(写真:坪倉さん提供)

■「植物人間」と呼ばれて

──坪倉さんは2005年に「ゆうすけ工房」を開設し、現在、草木染作家として活躍する。

 大学は染織コースだったので、いろんな染料を勉強しました。その中で、草木染の授業があったんです。いつもの染料の液を水に溶かすのではなく、山に行きみんなそれぞれ葉っぱを取ったり枝を取ったり。それを鍋に放り込む。みんなの鍋を見て回ったら、黄色い染液に入れたのに緑に染まったり、茶色い染液に入れたのに黄色に染まったり。自分が想像していた色が全部覆されました。ちょうど「色」を覚えた頃でしたから、それがぐちゃぐちゃにされてしまった。自分が考えもしなかった不思議な色にどんどん変わっていく草木染が面白くなってしまったんです。研究だけでは止まらなくなってしまい、職人になり、独立して今に至ります。

──草木染を追求することになった理由がもう一つある。事故に遭ったことで坪倉さんが「植物人間」と言われていたことだ。

「お前は入院していて植物みたいに動けない人間になっていたんだ。そういう人のことを植物人間って言うんだよ」。周りからそう言われても、「今、僕は動けるんだから人間って呼んでもらってもいいんじゃないか。なのに、なぜみんなは僕を植物人間って呼ぶんだろう」と思っていました。人間、植物、そして僕にだけつけられる植物人間。そのことがずっと忘れられなくて、今の追求に繋がるきっかけになりました。植物も人間と同じく生きていると気付かされた。そんなことから僕は染料となる植物はすでに伐採されたものや、廃材すらも使っています。植物に戻すことはできないけれど、その命を着物に転じて色として生かす。そこから人の笑顔を作る、楽しめる着物を作る職人としてやっていきたいんです。

■理想の色とは

──坪倉さんにとって理想の色とはどんな色なのだろうか。

 母に感じる優しい色です。「坪倉さんの染めている色って優しい色ですね」と言われることが多いんですが、着ただけでお母さんに寄り添っているとか、お母さんに抱かれていた子のように感じられる色とはどんな色でしょう? 着る人にそう思わせる、言わせてしまう色に染めてみたい。僕の染めた着物を着たらお母さんにやっと会えました、お母さん久しぶりって、思わず言ってしまうような色になったらいいなと思っています。

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2022年9月5日号

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