いしい・ゆうか/1963年生まれ。東京大学大学院で仏教を学ぶ。チェンナイで遭遇した洪水を題材にした『百年泥』で2018年、芥川賞を受賞(photo/石井遊佳さん提供)
いしい・ゆうか/1963年生まれ。東京大学大学院で仏教を学ぶ。チェンナイで遭遇した洪水を題材にした『百年泥』で2018年、芥川賞を受賞(photo/石井遊佳さん提供)
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 近年日本では、強烈なカオス感のイメージがある「インド沼」にはまる人が増えている。なぜインドに人々は引かれてしまうのか。芥川賞作家・石井遊佳さんに聞いた。AERA 2022年8月29日号の記事を紹介する。

【写真】チェンナイのIT企業で日本語講師を務めた石井さん。教え子たちとのショット

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 2006年、サンスクリット語の研究者である夫の留学に伴い、初めてインドへ行きました。暮らしたのは、ヒンドゥー教の聖地バラナシ。街の東側を流れるガンジス川の一番上流にあるアッシー・ガート(沐浴(もくよく)や祭礼の場)の近くに住んでいました。

 過酷でした。夫は、よく死ななかったなと(笑)。住居にはエアコンがなく、蚊も多い。4~7月は室内でも体温以上になりますから、私はその間、日本に逃げ帰っていました。停電は毎日8時間、ろうそくの明かりで食事をしたこともあります。ただ、世界中から人が集まる場所でもあり、物を書く人間として興味の尽きない日々でした。

 09年に帰国、再びインドへ渡ったのは15年。南部のチェンナイで日本語講師として職を得た夫とともに、なぜか私も一緒に働くことになりました。大都会で車が多く、ドライバーの運転が乱暴なので、道を歩くのはいつも命がけ。とはいえ、人々は穏やかで優しく、会社にはエアコンがあり、生活自体はそれほど大変ではありませんでした。

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