翻訳家にとどまらず、文芸評論家としてもご活躍の鴻巣友季子さん。作家・林真理子さんとの対談では、全世界で愛される『風と共に去りぬ』との出合いについて語り合いました。
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林:鴻巣さんは、翻訳家だけでなく文芸評論家としても知られていて、朝日新聞の「文芸時評」も担当されていますよね。これって、わが国の文学界の歴史的なページだと思うんです。
鴻巣:これまで担当されてきた方が江藤淳さん、大江健三郎さん、蓮實重彦さん……。そうそうたる顔ぶれですよね。
林:一つのキーワードに向かって理論的にきちんと進んでいく手腕、すごいなと思います。広範囲に目配りしなきゃいけないから、ほんとに大変ですよね。
鴻巣:私の2代前くらいまでの執筆者の方は、基本的に純文学の文芸誌に載っている作品を取り上げてたんです。だけど、私の先代は文芸誌の作品ではなく、単行本とか、海外文学も、という自由なスタイルで執筆されていて、いまは読者が手に取りやすい単行本を中心にした時評になっています。時流とか時世に目配りをしつつ、私がさらに頼まれたのは「海外の作家や世界文学の現状も盛り込んでください」ということでした。
林:もう一つのお仕事の翻訳家ですけど、翻訳家って、英語の知識と文化への深い理解や、いろんな知識が必要だから、知的で素敵な仕事だなあと思います。
鴻巣:翻訳本はなかなか売れないのに、翻訳家になりたいという人はたくさんいますね。
林:翻訳って、まず向こうから原書が来ますよね。その英語を見て、すぐ日本語の訳がパーッと頭に浮かぶんですか。
鴻巣:いろいろなタイプの人がいるんですけど、私は最後まで読んで、お引き受けすると決めたらいきなり訳し始めますね。ボチャンとすぐプールに飛び込む感じで。私はどっちかというと憑依型なんです。『風と共に去りぬ』なんかは、スカーレット(同作の主人公)のところはスカーレットになったような口調でしゃべったりします。