全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年8月29日号には、NEWBASIC inc.クリエイティブディレクターの大西藍さんが登場した。
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店の扉を開けると、壁一面に色とりどりのユニークなシューズが整然と並んでいる。雪駄? それとも、スニーカー? 答えはどちらも正解だ。雪駄とスニーカーを掛け合わせてできた新しいシューズだ。
伝統的な工芸品を最新の技術で生まれ変わらせる独自の発想で、現代の生活になじむ商品を次々と生み出す。
日本の伝統を身近に感じてもらいたいと、2018年、高校の同級生の武内賢太さんと、新しいライフスタイルを提案するブランド「goyemon(ごゑもん)」を立ち上げた。
江戸時代の粋なおしゃれが好きで、普段から街で雪駄を履きこなす。歩きながら底の薄さが気になった。靴を履き慣れた現代人には、履き心地が悪く、疲れやすい。もちろん、アスファルトの上を歩くことを想定して作られていない。「雪駄の底にスニーカーのエアソールを貼り付ければいい」と思いついた。
製作はいつもデザインから始める。アイデアを何より大切にしているので、作り方はその後に考える。
「作れないから諦めるのではなく、どうやったらできるかを考える。そうすれば時間はかかっても必ず形になる」
そんな高校時代の先生の教えを大切に守っている。
雪駄作りの職人に製作を依頼するため、十数社に声をかけた。回答はどこも「できない」。それでも、どの部分ができないのかを徹底して聞き出した。できない部分がわかれば、そこは自分たちで方法を考え、自分たちで作る。やりとりを重ねるうちに「一緒に作ろう」と言ってくれる人が現れた。
初めて用意した280足は、ネットで半日で完売。追加で1200足を準備したが1週間ほどで売り切れ。色や素材を変え、現在は30種類に増やした。今も販売、すぐ完売の状況が続いている。
ガラスの表面に繊細なカットを施した切子グラスも、耐熱ガラスを使って現代風にアレンジすることに成功した。頼んだメーカーには、耐熱ガラスに切子のカットを加えると、ガラスが割れると断られたが、割れてもいいから作ってと食い下がり、またも商品化にこぎ着けた。
「海外にも目を向けつつ、日本の伝統をアップデートし続けたい」
(ライター・浴野朝香)
※AERA 2022年8月29日号