鍵山にとっても初心を取り戻す重要な舞台となった。本来なら羽生と宇野を追いかける立場。だが、昨季の世界選手権は「4回転2種類」という堅実作戦が功を奏し、3種類に挑んだ2人を抑えて銀メダルを獲得した。今季前半を終え、気づけば世界ランキング1位になっていた。
「何か重いものを背負っていた感じがありました。でも、SPの公式練習のあと、急にワクワクして『早く試合したい』という気持ちになったんです」
前日、羽生が世界初の4回転アクセルを練習し、宇野も4種類の4回転を次々と降りた。鍵山は自分の「挑戦者」としての魂を再確認したのだ。
自分の力で景色見たい
SPは見事な4回転サルコー+3回転トーループで滑り出す。4回転トーループは転倒し、95.15点の3位で折り返した。
「羽生君と宇野君の点数が聞こえて、受け止めました。皆が試合に向けてベストな状態で臨んでいて、これが本当のやりたかった試合なんだと楽しんでいます」
フリーは3本の4回転を成功。一つミスはあったものの、全体を通して気迫があふれる滑りで197.26点の2位。総合292.41点で3位となった。
初の五輪代表に選ばれると、ほっとした様子で語った。
「(フィギュアスケートで1992年アルベールビル、94年リレハンメル両五輪に出場した)父(正和さん)からは『色々あったけど、よく頑張った』と言われました。でも、五輪の話を自分から父に聞いたことはありません。自分の力で五輪という景色を見てみたいと思います」
(ライター・野口美恵)
※AERA 2022年1月17日号