
電話相談対応に従事する中でつらかった点や困難に感じた点に関しては「相談者への対応の難しさ」「PCR検査の要否や紹介先の判断の難しさ」、職場の労働安全衛生やサポート態勢など「有事対応に伴う過重な業務態勢」の大きく三つに分類されることもわかった。
具体的には、相談者への対応については「態勢や個人情報の開示など個人ではどうしようもない苦情への対応がつらかった」といった声や、「説明しても納得せずに何度も電話をかけてくる人がいて困った」という例のほか、一方的な叱責(しっせき)や人格攻撃を受けたケースもあった。
勤務態勢に関しても、「業務用携帯電話を持たされ、24時間対応する」「自宅での電話対応や、昼休みなどの業務への手当や振り替えがない」といった実情が寄せられた。
また、「多忙時に人間関係が悪化したり、対応を確認する上司の手が空いていなかったりする」など職場内で相互にサポートする態勢の不備の問題や、「状況が刻々と変わり、その都度メールなどで通知があるが、件数が多すぎて対処できない」といった相談対応に必要な情報へのアクセス手段の不便さを指摘する声もあった。ほかにも「睡眠時間の確保が困難」「心配と緊張で心が休まらない」「自分の行った対応内容で本当によかったか悩む」など、職員の心身の疲労も浮き彫りになった。
研究を主導した同研究所の富田博秋教授はこう話す。
「保健所職員が相談者からぶつけられる不安や怒りなどのネガティブな感情への対応の困難さは、医療従事者とは異なる保健所職員特有のものであると考えています。私たちの調査は第2波から第3波の過渡期に行いましたが、より感染者数が膨らむことが見込まれる第6波において、保健所職員のストレスケアの重要性に改めて配慮が求められます。また、相談者も困っていることや不安を伝えているのだと思いますが、窓口に立つ職員も個人としては厳しい状況の中で最善を尽くそうとしていることが社会に広く周知されるとよいように思います」
■保健所職員にも配慮を
被災地では、惨事ストレスで「休めなくなる」という症状が出やすいことも報告されている。現場は目の前の対応を優先するあまり、非常時だから仕方がない、と労務管理やストレスマネジメントをあきらめてしまいがちだ。それを防ぐには、自治体を挙げてのフォロー態勢の構築や他部門との連携強化が不可欠だ、と前出の墨田区保健所の西塚所長は訴える。
「保健師も患者さんとともに傷つき、それを乗り越えてこれまでやってきています。地域住民の命を守る側の人たちの惨事ストレスにも目をくばっていただきたいです」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2022年1月24日号