人間は老化することで病気になり、死に至る。では、老化はどのように起き、死はいつ訪れるのか。そのことを探るには、ヒトの細胞の特徴を知ることが手がかりになる。
成人の体はおよそ37兆個の細胞でできており、1日に3千億~4千億個ほどの細胞が自ら死んでいく。重さにして約200グラム、およそステーキ1枚分に相当する。老化したり異常になったりした細胞が、計画的に死んでいく仕組みが「アポトーシス」だ。死んだ分だけ新しい細胞が幹細胞から補給される。これが、いわゆる新陳代謝だ。
『ヒトはどうして死ぬのか』(幻冬舎新書)の著者で、東京理科大学研究推進機構総合研究院の田沼靖一教授によると、人間の細胞は「再生系」と「非再生系」とに分類できる。
「代表的な再生細胞である皮膚は28日周期で入れ替わり、古くなった細胞は垢となって剥がれ落ちます。肝臓は、例えばお酒を飲むとアルコールを分解する時に有害なアセトアルデヒドができて肝細胞を傷つける。傷ついた細胞は修復されますが、あまり飲みすぎると修復が追いつかなくなるので、アポトーシスで除去して新しい肝細胞に置き換わります」(田沼教授)
ただ、こうした細胞分裂は永遠に繰り返せるわけではないという。
「回数券のように分裂には限りがあって、使い切ると再生できなくなり死に至る。長生きするためには、やはり暴飲暴食は避けるべきです」(同)
もう一つの非再生細胞は、脳の神経細胞と心臓の心筋細胞だ。
「神経細胞や心筋細胞は再生しない代わりに、何十年も生きます。長期の耐用年数が付与された定期券みたいなものです。それでもストレスなどで酷使すると、早く擦り切れてしまいます。ほとんど取り換えのきかない非再生細胞の死は、個体の死に直結します」(同)
日本人の死因のトップは81年以来、39年間連続でがんが君臨している。20年は全死亡者数の約28%を占めた。正常な細胞がなぜ、がん細胞になるのか。『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)の著者で、東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授がこう説明する。