今後、数学必須の受験方式は私立大学で広がっていくのだろうか。

「その可能性は低いと思います。なぜなら、数学を必須化することで受験の間口を狭めることになるからです。文系の受験生は、もちろん地歴公民が好きという人も一定数いますが、それよりは数学が苦手だから地歴公民を選択したという人のほうが多いと思います。受験者数を増やしたい大学側の考えが強くあるので、経営的な側面でも数学を必須科目として取り入れることは難しいでしょう」

 経済学部を選んだ学生でも、数学への苦手意識を持つ人は少なくない。それは昔も変わらないようだ。今から60年以上前の学部生向けの経済学の教科書『産業連関論入門』(森嶋通夫著、1956年発行)では、冒頭にこんなことが書かれている。

「いままで多くの人たちは(中略)、自己の数学的知識の不足故に、この理論を理解しえないことがしばしばありました。それ故わたくしは、数学アレルギー体質の人たちにもわかるように書くということに全精力を傾注しました」

 この本を研究室に置いているという前出の堀江教授はこう話す。

「高校時代に数学をあまり勉強していなかったという人も、経済現象の表面を追うことはできます。しかし、なぜこのような現象が起きたのかという構造までは理解できません。経済学は、数理的モデル分析と統計的データ分析を用いて、人や企業のような組織の意思決定を解析し、市場、交渉、紛争などのメカニズムを解明することができる行動科学です。ICT技術の発達により、データの質が向上しただけではなく、複雑な統計分析やシミュレーションを用いた過去の出来事の分析と未来の予測が、個人のパソコンでもできるようになりました。そのため、数学の力は経済学において、かつて以上に求められています」

 そのうえで、高校生にこうメッセージを送った。

「高校生には数学をあきらめないでほしい。その若さで早々に興味をもたずにあきらめるのであれば、これからの人生でいったいどれだけのことをあきらめることになるのでしょうか? 高校生の集中力と忍耐力があれば、数学はやれば絶対にできるようになります」

(白石圭)