2.5次元舞台と聞いていたのに、楽屋に現れたのはドリフで見たことのある落ち武者のカツラを被った我が夫であった。
子供は驚いて泣き、私は、「え、2.5次元舞台なんだよね?」と確認した。
「いや、まだメイクしてないから!」
「え、でもそのカツラで出るんだよね?」
「これからメイクするから」
メイクしたとて、そのカツラだよねと深掘りするのは控えた。
楽屋を往来する他の出演者のメンバーはみな綺麗なカツラにカラコン、華々しい衣装で擬人化した刀のキャラクターの扮装をしている。
楽屋にみんなのブロマイド写真が並んでいた。ロビーで販売するグッズだ。
ゲームのキャラクターそのままに、再現度の高い扮装でカッコいいポーズを決める出演者たちの写真。
その中に……。
「え、これ京都太秦に所属する斬られ役の人だよね」
地味な背景に、そのまま大河ドラマの現場に行けそうなリアリズムの侍が。
「俺は歴史上の人物の役だから!」
お芝居を観ると、夫は華やかでカッコいい擬人化した刀たちに混じって、京都太秦クオリティーのリアリズム侍で前半出演し、ラストの方では白塗りに黒で隈取りしたメイクの落ち武者として出演していた。
あの時のあのブロマイド、売れたんだろうか。
余計な心配をしていると、我が子がすっと小さく折りたたんだ紙を手渡してきた。
「お手紙です」
さっきパパと書いていたのはこれだったか。
ほほえましい気持ちで手紙を開いた。
へながわもみじさんへ
まだ生きてますか
いかがおすごしですか
じょうぶにいきてますか?
こちらはまだ生きています
まだ血もでてません
ずいぶんと物騒な内容であった。
へながわもみじさんって誰よ。
聞いたら、架空のおばあちゃんなのだそうだ。
なんだそりゃ。
我が子はどんな子に育っていくのだろう。
親の背中ばかり見せるのもあれかもしれないから、いろんな立派な人の背中を見せようと思う。
■水野美紀(みずのみき)
俳優。ドラマ・映画・舞台で活躍中。<出演情報>Amazonプライムビデオ「ザ・マスクド・シンガー」が配信中。作・演出・出演した舞台『2つの「ヒ」キゲキ』のDVDの予約を10/31まで受付中(https://2hikigeki.official.ec)。レギュラー番組は、フジテレビ系バラエティ「突然ですが占ってもいいですか?」毎週水曜22:00~、読売テレビ「水野美紀の映画生活(シネマライフ)」毎週金曜22:54~<関西ローカル> http://www.ytv.co.jp/cinemalife/
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