40年以上にわたり、俳優として第一線で活躍する宮崎美子さん。公開中の映画「猫と塩、または砂糖」では、主人公の母親役を演じています。どんな撮影現場だったのでしょうか。作家・林真理子さんがその舞台裏に迫りました。
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林:今回の「猫と塩、または砂糖」という映画(上映中)拝見しましたけど、すごくシュールな映画でした。
宮崎:そうなんですよ。
林:宮崎さんの可愛らしさと、真に迫った“アル中”の演技だけが記憶に残ってます(笑)。
宮崎:初“アル中”でした。30代の息子が「僕の職業は猫である」と言うところから始まって、私(母親)も家の中に引きこもってしまうという、閉じた家族の話です。
林:宮崎さんの初恋の人が、不思議な雰囲気をまとう美しい娘と一緒に家に入り込んでくるんですよね。
宮崎:何なんでしょうか、この世界(笑)。監督(小松孝)も商業映画は初めてで、まだ慣れていらっしゃらなくて、いろいろ悩んでました。特に初日は、私だけじゃなくて、(元カレ役の)池田成志さんも諏訪太朗さん(宮崎さんの夫役)も、監督の描きたい世界がわからなくて、混乱していました。あんなに頭の中がグチャグチャになる現場ってなかなかないなと思います。2日目、3日目になって「ああ、こういうことなのか。それに従うしかないな」と思って、みんなハラをくくって。
林:みんな胸を貸してあげたんですね、この若い監督に(笑)。でも、「世界のクロサワ」の映画(「乱」)にお出になった宮崎さんとしては、思うことがいっぱいあるんじゃないですか。
宮崎:いえいえ、映画って、われわれは監督の思いを伝えるための道具のようなものですから、監督の意に流されるしかないんだなと再確認したような感じでした。黒澤さんは「こういう映画を撮りたい」という絵コンテが回ってきて、そのとおりにみんなつくるわけですね。美術部さんもみんな。監督さんの思いを綴(つづ)るわけで、だから今回の映画も同じですね。