※写真はイメージです (GettyImages)
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 二人で二階への階段を上りながら、彼が声をかけた。「数学の参考書、よかったら貸しましょうか」

 彼は京都大学を受験するべく、猛勉強中で、多分廊下に張り出された私の赤点ギリギリの成績を知っていたのだろう。

 それがきっかけで、たまたま私が寄留していた家と彼の自宅が近いせいもあって、毎日のように会うことになる。

 担任の先生は心配したらしいが、みごと現役で志望校に入ることができた。かえって心の張りができ、勉強も進んだのだろうか。

 私は私立を受験したのだが、最初の会話が「数学の参考書」だったことが、今も昔も受験の厳しさを物語っている。

 だが、今回のカンニングは、スマホを使って東大生など見知らぬ学生に解答を依頼する安易さが理解できない。その知恵と手間を自分を高めることになぜ使わないのか。自分のしたことはよくも悪くも自分に戻って来るのだから。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2022年2月18日号

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下重暁子

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下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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