俳優、脚本家の佐藤二朗さん
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 個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は、「すれ違い」について。

【写真】佐藤二朗はやはり仏であった

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「すれ違えない男」である。

 今までいろんなところで話してきたが、俺は、マジ「すれ違えない男」なのである。

「すみに置けない男」ではない。

 誰もそんなことは言ってないし、最初の「す」しか合ってないわけだが、そんなことはいいとして、俺は、狭い路地で人と「すれ違えない」のである。

 歩いている。向こうから人がやってくる。狭い路地だ。相手とすれ違うために俺は右に寄る。すると相手も右(相手からしたら左)に寄る。これはイカンと俺は左に寄る。すると相手も左(相手からしたら右)に寄る。それが延々28回ほど繰り返される。28回は大袈裟かもしれないが22回は少なくとも繰り返される。

 理想はもちろん、スマートに一発ですれ違うことだ。しかし俺の人生史上、一発ですれ違えたことは、ほぼない。どのくらいないかというと、東京ドームを満たすほどの水に醤油を一滴垂らした場合とソースを一滴垂らした場合を肉眼で見分けられる人がいないくらい、ない。

 なんの話をしていたか忘れてしまいそうなくらい、たとえ話が常軌を逸してしまったが、とにかく本当に俺は「すれ違えない男」なのだ。

 そしてそれを今日、さらに確信した。

 俺は歩道橋を歩いていた。

 向こうから、俺と同じような、大柄な男性が歩いてくる。

 共に大柄な体躯であるため、まだかなり2人の距離がある段階から、2人は「すれ違う」ことを模索し始めた。

 右、おっと左、いかん右、ちょマジか左、おいおい右、いい加減にしてくれ左…ちょ分かった、ここは互いに落ち着こう。君は動くな。俺が右に行くから君は動くな。いいか動くなよ……右、だから動くなって言っとろうがっっっ。

 みたいなことが、俺の体感で79回ほど続いた。途中で思わず俺はマスクの下で笑ってしまい、相手の大柄な男性もマスクの下で(恐らく)笑って、軽く会釈してすれ違い、79回の死闘は幕を下ろした。

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なんだか可笑しくもあり、哀しくもあった