撮影:小野啓
撮影:小野啓

■どこのモールか分からない面白さ

 巨大なショッピングモールは、それを目の前にしても、なかなか全容がつかみにくい。

 当然のことながら、撮影場所選びにもGoogleマップやストリートビューなど、ネット情報を活用していると思った。

 ところが、意外なことにネット情報はあまり使わないという。

「撮影をネットに頼ると、勘が鈍る、みたいなところがあるんです。だから、実際に現地に行って、とにかく周辺を歩く。そうしないと、わからない。巨大なモールだったら、巨大なぶんだけ歩く」

 しかし、モールの外観を撮るのはなかなか難しいという。

「というのも、何も特徴がないんですね。もちろん、特徴のあるモールもあるけれど、だいたい、どこに行っても同じ。特徴がないから、どこを撮ったらいいのか分からない、となる」

 小野さんはさらに、こう続けた。

「撮影した写真を誰かに見せても、どこのモールか、分からない。逆にどの写真も、『ああ、見たことあるな』と感じる。特徴がないことの面白さ。そこに、いちばん関心があるんです」

撮影:小野啓
撮影:小野啓

■最初は「うそっぽさがよかった」

 作品のなかには、写真というよりCGで描いた「駅前再開発の完成予想図」みたいなものもある。要するに、現実感がなく、うそっぽい。

 そんな感想を伝えると、「それ、いいですね」と、小野さんは口にした。

 青い空と真新しそうなモール。カラフルな店舗の看板や、花壇が設けられた白い歩道が写っている。画面の真ん中には赤い服を着た男性がぽつんと見える。

「そんなうそっぽさがよかったんです。だから、最初のころは晴れの日を選んで撮影した。でも、何年も撮っているうちに、だんだんうそっぽさがなんか違う気がしてきて、晴れの日にこだわらなくなりました」

 そう言って、今度はどんよりした曇り空の下に横たわるモールの写真を見せてくれる。しかし、なぜか、画面の手前がブレている。

「これは新幹線の中から写したんです。高校生を撮りに行ったとき、ふと、この光景が目の前に流れてきた。たまたま手にカメラを持っていたので、流し撮りで撮影した」

 そういえば、全国各地にある新幹線の駅はどこも同じようなつくりで、その点はモールと似ていると、ふと思う。

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