悲しすぎる映画を見ても当然泣いてしまう。嬉しい時、悲しい時は副交感神経なので、少し甘めの涙ということになるのだろうが、なんか、そこにも種類がある気がする。
悲しくて泣いてしまう映画がある。「そりゃ泣くわ」ってやつ。ああいうときは、感動というよりも、悲しすぎて泣いてしまう時がある。個人的にはあの時の涙は「Sweet tears」ではない気がする。
やはり、気持ちよく涙が流せたらそんなありがたいことはない。映画でも、このSweet tearsを流させてくれる映画がある。
先日、ここ数年で、一番Sweet tearsを流した映画を見た。本当に良かった。僕の知人の方々が揃ってフェイスブックやツイッターで誉めていたので、見に行った。
その映画は『Codaコーダあいのうた』という映画。正直、タイトルが地味だと感じてしまったのだが、いや、もう本当にSweet tearsでマスクまで甘めになりました。
2014年のフランス映画『エール!』という映画のリメイクで、アメリカ、フランス、カナダの共同製作だそうです。
物語は、マサチューセッツ州で暮らす4人家族。父と母と兄と主人公の女の子ルビー。
この中で、唯一耳が聞こえる高校生のルビー・ロッシは、家族のために通訳となり、家業の漁業を手伝う日々を送っている。みんなルビーを頼りにしているのだが。ある日、ルビーが合唱部に所属することから、その顧問の先生はルビーの歌の才能に気づく……。
ルビーは自分の中に夢が芽生えるが、家族はルビーに頼っている……
と、こんな感じで展開する物語。
この「CODA」というのはChildren of Deaf Adultsのことで、きこえない・きこえにくい親をもつきこえる子どものことだそうです。両親ともきこえなくても、どちらか一方の親だけがきこえなくても、また親がろう者でも難聴者でも、きこえる子どもはコーダとされると書いてあります。
途中から、こうなっていくのだろうな、こうなっていってほしいなと思っていると、そういう展開になっていくのだが、その表現の仕方に、Sweet tears祭りです。いや、本当に、映画館の中はすすり泣きの合唱。
みんなのキャラが笑えるし、そして泣ける。笑えて泣けるなんて言葉、本当は使いたくないがまさにそれ。
見終わって、その一日、超気持ちいい。あの時の北島康介の気持ちが味わえる。
あなたもSweet tearsを流して、涙の味を確認してみませんか?
■鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。毎週金曜更新のバブル期入社の50代の部長の悲哀を描く16コマ漫画「ティラノ部長」と毎週水曜更新のラブホラー漫画「お化けと風鈴」の原作を担当し、自身のインスタグラムで公開中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)は発売中。「お化けと風鈴」はLINE漫画でも連載スタート。YOASOBI「ハルカ」の原作「月王子」を書籍化したイラスト小説「ハルカと月の王子様」が好評発売中。長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が発売中。作演出を手掛ける舞台「怖い絵」が2022年3月に東京・大阪にて上演。