「恩返しですわ。この子らと一緒にいると、心がきれいになる。大切なことはお金じゃないと思える。何ちゅうマジックや」
食堂やグッズ販売の収益は、保護猫を助ける費用にまわす。世話をしたすべての猫たちの幸せを、寺岡さんは願っている。
■エースが空気変えた
新井かおりさんが働く「犬猫生活」は、設立4年ほどの若い会社だ。オンライン会議でアイデアを出し合っていたときだ。
「にゃあああ!」
膝の上に座っていたエースが、沈黙を破った。場の空気が一気に和み、参加メンバーが言った。
「なるほど、エースの意見は『のんびりいこうぜ』だな」
キジ白猫、エース(推定3歳、オス)はオンライン会議の常連メンバーだ。新井さんがパソコンを開けば、懸垂の要領で膝の上によじ登ってくる。最初は「仕事にならない」と苦笑していたが、何度も諦めず登頂するエースに折れ、いまでは膝に乗せたまま、どんな仕事もこなす。
エースは外猫として暮らしていた沖縄で交通事故に遭い、壊死しかけた後ろ脚を断脚した。下半身が不随で毎日の圧迫排尿が必要だし、感覚のない体を守るための洋服も欠かせない。
だが、エースはそんなハンディを感じさせない。表情が豊かで、運動神経は抜群だ。前脚をリズミカルに動かし進んだと思えば、爆速でダッシュする。
そして、とてもおしゃべりだ。歌うように何度も名前を呼ぶ新井さんに、エースは「にゃあ」と答えるし、自ら訴えかける。
エースはおやつが好きだし、先住猫のおむすびさんのことも、新井さん夫婦のことも大好きだ。今日もエースは会議に参加する。自慢のひげをピンとたてて伝えることに耳を澄ませたい。(編集部・熊澤志保)
※AERA 2022年2月28日号