「別にもう腹も立たなかったので、浴衣のようなものを探して着せたんです。それから葬儀屋さんが来て、費用を尋ねると『3コースあります』と言う。一番高いのでと言ったとたん、ニコニコ顔で『霊柩車、キャデラックにしますよ』って。ボロボロの長屋にキャデラックでしょう、親戚たちは、いくら負担しなきゃいけないんだろうと青ざめるし……」
父親のことを綴ったこの「ろくでもない死に方」の章には、前夜に父親がのど自慢番組の練習で「浪曲子守唄」を風呂場で歌う気張った声を、隣家の人が聴いていたことも記されていて、奇妙な哀切がある。
「笑いましたよと言ってもらえるのが一番嬉しいかもしれないねえ。何だろう。吉本新喜劇とか見ながら育っているからかなあ」
(朝山実)
※週刊朝日 2022年3月4日号