そして、4対5で迎えた12回1死二塁でも、マギーが敬遠され、三たび亀井に打順が回ってきた。
「負けたら全部僕の責任」と思いつめていた亀井は「最後打てなかったら、命を取られると思って……」と文字どおり一生懸命の境地で、カウント1-1から初球に空振りした大嶺祐太のフォークを振り抜いた。
すると、その思いが天に通じたのか、フォークは落ちずに失投となり、鮮やかな逆転サヨナラ3ランに。泣きじゃくりながらダイヤモンドを1周した亀井は「野球の神様がいてくれた」と感激し、高橋由伸監督との涙の抱擁シーンも、ファンにとって忘れられない名場面になった。
昨季限りで引退した亀井は、同年10月1日のDeNA戦でも、2対2の7回1死二、三塁で4番・岡本和真が申告敬遠された直後、「毎年、誰かが敬遠されて、僕(の打席)という形が多いので、いつも『ナメられてんな』という気持ちもある」と闘志を奮い立たせ、決勝中犠飛を記録している。
前打者敬遠に奮起した結果、人生初の快挙を成し遂げたのが、西武・外崎修汰だ。
昨年7月24日のロッテ戦、2対2の9回、西武は先頭の源田壮亮がセーフティバントで一塁セーフをかち取ると、森友哉がプロ2度目のバントを手堅く決め、1死二塁とサヨナラのお膳立てをする。
この場面で、打者は4番・山川穂高。一塁が空いているので、ロッテとしては、無理に勝負する必要はない。井口資仁監督も当然のように申告敬遠を指示した。
ネクストサークルの外崎はポーカーフェイスを装ったが、内心は「クソーと思った」。そんな悔しさをバネに、「ゲン(源田)や友哉がつないでくれた。何とか返したかった」と気合を充実させる。
富士大の1年先輩にあたる山川の「積極的にいけよ」の激励にも勇気づけられ、「どんどん振っていこう」と前向きな気持ちになった。
そして、1ボールから益田直也の2球目、147キロ直球を打ち返すと、打球は少し詰まり、左翼方向への飛球となった。「詰まったので、“うわっ”と思った」そうだが、飛んだ位置が良く、必死に前進するレフト・菅野剛士の手前に落ちた。二塁走者・源田が生還し、劇的なサヨナラ勝ち。
実は、外崎にとって、これがプロ6年目で初めてであるばかりでなく、野球人生でも初体験のサヨナラ打だった。