すると、アルテムも「戦争は怖い。しかし、私がショックを受けるのは、日々大きくなっていく人間の攻撃性と憎悪だ。国籍による差別には反対だ。ロシア人であることを恥じてはいません。私はロシア人であることを誇りに思っています。そして、なぜ今、アスリートが苦しまなければならないのか、理解できないのです」と自身のインスタグラムで胸中を綴った。

 ロシアで駐在経験のある通信部の記者は「プーチン政権を批判するのは当然のことですが、ロシアの選手を責めるのは間違っている」と指摘する。

「プーチン大統領の軍事侵攻を支持しているロシア人アスリートは皆無に近い。ただ、彼らに『戦争反対を声高に訴えろ』と要求するのは酷です。母国で影響力の強い彼らが軍事侵攻に反対する発言をしてプーチン政権の耳に届けば、家族や親しい人たちが危険な目に遭う恐れもある。声を上げたくても上げられないんです。国際大会に出られなくなったロシアの選手たちも被害者であることを忘れてはいけない。沈黙を続ける選手たちに誹謗中傷の言葉をSNS上で浴びせるべきではないと思います」

 かつて、1980年で開催されたモスクワ五輪に米国の要請の元、日本も出場をボイコットした。夢の舞台に立つはずだった選手たちは大きなショックを受けたが、やり場のない怒りをどこにもぶつけることができなかった。歴史は再び繰り返される。国際大会から除外されたロシア、ベラルーシの選手たちは何を思うのだろうか。(安西憲春)