仕事場は学生街の早稲田界隈にあるアパートのひと間。「大学時代は洋服のお直しをやっていたんです。スーツやジーパンの裾上げやボタン付けとか」と小泉。一人、ミシンに向かって楽しげに制作に励む(写真=小山幸佑)
仕事場は学生街の早稲田界隈にあるアパートのひと間。「大学時代は洋服のお直しをやっていたんです。スーツやジーパンの裾上げやボタン付けとか」と小泉。一人、ミシンに向かって楽しげに制作に励む(写真=小山幸佑)

批判覚悟で作ったドレス
反響大きく新聞に投稿も

 小泉のもとへオファーがあったのは開幕2カ月ほど前。コロナ禍で賛否渦巻く最中である。正直、引き受けるかどうか、心は揺れた。

「でも五輪の大舞台で依頼されたのはチャンスと思い、『やりたいです!』と。もし断って誰かがやるのはちょっと嫌かなと。だったら自分が責任をもって、世界中に希望を届けたいと思ったので」

 ほぼ1カ月の強行スケジュールで縫製を任せたのが、兵庫県西宮市でウェディングドレスを手がけるアトリエのスタッフだ。気心も知れているチーフの林美亜は、格別の思いを受けとめていた。

「あの状況では批判を受ける可能性もあることを覚悟され、使命を背負う緊張感もありました。それでも美しいものは必ず伝わる、こういう時こそ希望になるドレスを届けたいと言われたのです」

 デザインしたのは光のプリズムのようなドレスで、30色ほどのマルチカラーで表現する。使ったオーガンジーは100メートルほどで、ペットボトルをリサイクルした生地だ。フリルを一つひとつ縫い、大輪の花のようなドレスに仕上げる作業は大変だが、「時間をかけるほど可愛くなるから」と手間を惜しまない。最後は皆で手縫いをしながら追い込むが、いつも和やかだったと林はいう。

「最後のゴールを思い描き、ポジティブな気持ちでやればきっと上手くいく。良いものを作れば絶対認めてもらえるということも教えられました」

 MISIAが舞台に登場すると小泉のスマホは鳴り続け、反響は大きかった。生地の産地である石川県の女子高校生からは、コロナ禍で沈みがちな気持ちが明るくなったと地元紙へ投稿があった。

<私は、前を向いて進んでいきたい。この苦しみを抜けた先には希望に満ちた未来が待っているはずだから。あのドレスのように虹色に輝く、美しい未来が待っているはずだから>と。

 華やかなファッションは、小泉にとっても未来への希望を与えてくれたものだった。

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