横尾忠則
横尾忠則
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 芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、アトリエについて。

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 ハイ鮎川さん、アトリエについて何か書けというご注文ですね。僕のアトリエは100坪の地に建蔽率いっぱいに建てた半地下、地上一階の絵を描くためにガランとした天井の高い空間です。設計は建築家の磯崎新さん。成城の高台に建つスレートで囲まれたカマボコ型のポストモダン様式で、白い壁とドアその他は黄色で、色彩計画は横尾です。南向きで地上一階にバルコニーが突き出して、遠方には富士山がかなり大きく見えたのですが、隣の要塞(ようさい)のようなコンクリート造りの家の裏庭の樹木が繁茂した時は富士山は視界から消滅することがあります。代って樹木はアマゾンの熱帯雨林さながら、ツルがわがバルコニーの鉄骨のサンに巻きつき、夏などは鬱蒼(うっそう)としたジャングルに様変り。このジャングルに猿やアナコンダやワニがいない方が不思議なくらいの南洋一郎の密林大冒険小説の舞台に変容。このジャングルが春になると、南インドの光景に変って果物や花の咲く樹木の楽園に扮します。冬のこの季節は終日太陽がバルコニー越しに入りアトリエ内は温暖化、まるでホノルル状態ですが、玄関の辺りは凍結寸前のナホトカ状態で、真夏と真冬を同時に体感できます。春から初夏にかけてはバルコニーに出て、樹木が発するフィトンチッドと太陽のエネルギーを浴びて無為自然(じねん)の境を彷徨いながら、去来する雑念と戯れています。

 朝の9時に家を出てアトリエに自転車で通勤です。住宅街を自転車で走りますので、人は少なく、マスクなしでも感染はしませんが、来客にはマスクで対応。コロナ禍が続いたせいでしょうか、歩行したり、日常のちょっとした動作でも息苦しくなります。もしや心臓か肺の疾患ではと疑われて病院で徹底的に検査されましたが病理的症状は皆無で、身体的疾患はなし、と太鼓判を押されました。マニュアル的な医療法では僕の病気?は解決しない、もっと空想的な発想の医療法を導入すべきだ、と考えた結果、たどりついたのがマスク公害です。マスクが息切れの張本人だと判断した僕は、呼吸法を導入しました。吸って吐いての呼吸法は禅寺の参禅時にマスターしたもので、それを実践。効果はたちまち表れ、随分息切れが緩和されて元の日常に戻りつつあります。

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