春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「花粉」。

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『楳図かずお大美術展』を観に行った。気合を入れて臨んだらグッタリ。素晴らしい。楳図かずお作『洗礼』を久しぶりに読んでみる。我が子の頭を開いて、そこに自分の脳みそを入れて「若返る」お母さん。ふたたびグッタリ(いい意味で)。

『花粉』の季節、「ヴァー!! もー! 目ん玉取り出して水洗いしたいっ!!」なんて悶えている人がいる。そら、さっぱりするだろう。実際、たこ焼きをひっくり返すがごとく「クリン」と目ん玉が取り出せるわけがないのだが、落語には『犬の目』という洗礼チックなマッドサイエンティスト噺がある。「目の悪い患者の目玉をくりぬいて薬液に漬けておくと、犬に食べられてしまう。しかたないので代わりにその犬の目玉を抜いて患者に入れる。すると以前よりもよく見えるようになったのだが、『電柱見るとオシッコするようになっちゃった!』」という噺。なんじゃそら。面白い人がやると面白いけど、つまんない人がやると「なんじゃそら!?」そんな噺。『洗礼』とは真逆のベクトルですが、矢印の長さは同じくらい。

 正月の疲れがまだとれません。嗚呼、身体の部位をバールのようなもので「バゴーンッ」と取り出して、他人に頼らず己の手で直接ケアしてみたい。歯、全部引っこ抜いて一本に5分かけて丁寧に磨き、漂白剤に漬ける。綺麗になるよ、自分でやれば。舌をポンッと抜いて舌苔を取る。サボテンを育てるように「いつもありがとう」と声を掛けながらやれば舌も生き生きしてくるはず。耳を器官ごとごっそり取り出し、丁寧に耳かき。長いピンセット使えばあり得ないような耳垢が出てくるはず。鼻の角栓も鏡なんか使わずに一つひとつ。頭皮をベリベリッと剥がしてたまには天日干ししなくては。いつもお日様に晒されてるって? 大きなお世話。ひなたで水に漬けておけば豆苗みたいに毛が生えてくるかもしれん。脳みその皺の間の汚れはマツイ棒でとり、頭蓋骨の内側の垢は中オチのようにスプーンでこそげ落とす。肩凝りが酷いから肩甲骨付近を取り外して、肉の筋を切るようにミートハンマーで叩きまくる。おなかが出るとヘソが見え難くなるから、ルーペを覗いて綿棒でゴマ取り。思い切って背中の皮を剥がし、隈なく背中を流す。背中、ちゃんと見たことないから「こんな長い毛がこんな所に一本だけ!?」とかありそうで楽しみだ。恥ずかしいけど下腹部も念入りに。内臓、骨、血管、皮膚はそれぞれネットに入れて、おしゃれ着用の洗剤でソフト洗い。陰干ししとけばこの時期なら半日もあれば乾くだろう。皮膚、乾燥機かけちゃったら後で縮んでえらいことになるから要注意。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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