──60年代と現代の最大の違いは何だと思いますか?

「年を重ねると、世界から取り残されていくように感じる。近年テクノロジーが驚くほど発展し、産業革命よりもずっと大きな変化をもたらした。これからも世の中はさらに大きく変わっていくと思うし。自分の育った世界と現在が、あまりに異なっているということが、この映画から見て取れると思うの」

──もしあなたが、ケンプトンのように名画を盗むとしたら、何を?

「カンディンスキーね。どの作品とは言えないけれど、とても好きだから。カンディンスキーが無理なら、ゴヤのほかの作品かしら。ゴヤの絵は大好きで、この前も後期の作品をマドリードで見た。難しいテーマだけれど、見応えがあった。レンブラントもいいと思う」

──ケンプトンは、かつての労働者階級のヒーロー的な存在です。いまの若い世代にも、彼のように弱者の権利のために立ち上がる人がいると思いますか?

「そうあってほしい。若者とは、世界を変えたいと欲するものだと思う。ところが80年代はちょっと例外で心配だった。80年代の若者は、世界を変えたいという願望がしぼんで、お金儲けだけに興味を示しているように見えた。私にとっては違和感のある時代だった。けれども最近はそれが変わり、うれしいことに、若い世代は非常に積極的に世界とかかわるようになったと思う。環境問題、社会問題、性的な意識など、さまざまな分野で行動している。すごく良い変化だ。それこそが若者の特権だと思うから。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリやブラック・ライブズ・マター(BLM)や#MeToo運動など、間違っていると思うことを断固拒否する。若者のそんな行動が好きなの。いまのウクライナにしてもそう。厳しい情勢にありながらも、市民の熱さを感じる。こうした運動の原動力になっている若者を称賛したい」

(在ロンドン、高野裕子)

週刊朝日  2022年3月11日号