──なぜこの役を引き受けたのですか? 演じてみて一番よかったと感じた瞬間とは?
「どんな役にもエキサイティングな瞬間はある。脚本を開いたとき、美しく書かれた内容であれば、素晴らしい映画になるだろうと感じる。それが最初のエキサイトメント。脚本が良くなければ、どんなに努力しても良い映画はできない。共演者によるところも大きい。共演者と意気投合できれば、良い作品になる可能性は高くなる。今作で共演したジムがそうだった。彼の目を見た瞬間、一緒に満足できる仕事になると感じた。最高な瞬間は、何といっても観客が映画を見て好きになってくれる瞬間よ。見終わった後に観客の満足した顔や、会話が弾んでいる様子を見た時。この映画がそうだった」
──ジムが演じたケンプトンは、労働者階級で独学して政治的な信念を持つ頑固な男。彼のような人は現在の英国にもはや存在しない気がしますが。
「彼のような英国人はずっと居続けてほしいと思う。個人主義でエキセントリックな変わり者というか……。ああいう人は、どんな国にもいると思う。『変わり者』という特性は、人間の本質を顕著に表す一面だと思うから」
──今作には60年代の映像も挿入され、当時の雰囲気が伝わってきます。あのころを振り返って、現在の英国から失われてしまったと思うことはありますか?
「私の両親の世代の人たちを失ったことは、寂しいことだと思う。両親は二人とも他界した。彼らの世代は世界恐慌を経験し、第2次世界大戦を生き延び、社会主義的な考え方を取り入れた国家も実現した。戦後できた国民保健サービスや、すべての国民が教育を受けられるようになった社会。母は14歳で義務教育を終えた後は教育を受ける機会はなかった。両親の世代は驚くべき苦労をくぐりぬけ、平和で安定した世界を築いた。私たちが生きる社会は、そんな世代、ケンプトン・バントンの世代に負うところが大きいと思う。苦労して、いまの社会の礎を築いてくれた世代が英国からいなくなるのは寂しいこと」