故人を偲ぶ会ではあっても、その故人にふさわしくあっていい。沈んだ色の人々の中にあると心まで沈んでしまう。

 私が今まで参加したお別れ会のなかで、出席者がおしゃれをして出席した唯一といっていい例は、兼高かおるさんの会であった。女性はみなドレスアップし、男性も兼高さんをイメージしたネクタイやシャツ。会場に花が咲いた。

 私は白黒ではあったが、衿元に真白い大きなバラを一輪飾っていった。お通夜や葬儀の席でも黒と決まっているわけではない。

 忘れられないのは、私の母が亡くなった時、通夜と葬儀に出席して下さった大島渚監督の薄紫色の上衣である。黒一色の中で際立ち、出席者がみんな「素敵ね」とささやきあった。

 私の母は紫色が好き。そして短歌を趣味として、戒名にも紫と詠の字が入っている。紫と白の花々に囲まれて、父が描いた母の油絵を飾った斎場で、大島監督の心くばりが人目をさらった。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2022年8月12日号

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