第2次世界大戦以降、欧州での戦争としては最大規模となる、ロシアによるウクライナ侵攻。首都キエフを包囲するロシア軍の攻撃は激化し、市民の犠牲者も増え続けている。それにしても不可解な戦争である。ロシア、ウクライナとも、相手国民に対してほとんど悪感情を抱いていないにも関わらず、大戦火を交える事態となってしまった。ロシア研究の第一人者で政治学者の筑波大学・中村逸郎教授は、「ロシア、ウクライナの国民は何も悪くない。これは『プーチンの戦争』」と指摘し、「人格が壊れた指導者」が核攻撃さえしかねない脅威を訴えた。
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「今回の戦争は、プーチン大統領がNATO(北大西洋条約機構)の脅威を意図的につくり出し、政治に利用した、いわば『プーチンの戦争』です。祖国ロシアを守るための戦争ではない。だから、彼の行動についていけないと感じているロシア軍の将校クラスからは公然と辞任要求が出ている」
中村教授はそう話し、同様に不満を抱くロシア国内の一部勢力、FSB(連邦保安庁。旧ソ連KGB)や軍などが、軍事機密をウクライナ側に流している、という情報もあるという。
「圧倒的な兵力を誇るロシア軍の侵攻が思うように進まず、いまも(ウクライナの)ゼレンスキー大統領の身柄を拘束できない背景には、ロシア側の情報がウクライナに伝わっているのではないか、というわけです」
■8年前から始まったウクライナ侵攻計画
中村教授によると、今回のロシアの軍事行動は8年にわたり綿密に練られたもので、2014年2月の「ウクライナの危機」に始まる流れの最終段階という。
そこで暗躍してきたといわれるのが、ロシア政府に代わり秘密裏の活動を行ってきたロシアの民間軍事会社「ワグネル」だ。
「ワグネルというのは7千~1万人の兵士が所属する世界最大規模の民間軍事組織。それが初めて実戦投入されたのが14年のウクライナ危機です」
このときロシアはクリミア半島を一方的に併合。さらにウクライナ東部ではドネツク州とルガンスク州の一部を親ロ派の武装勢力が実効支配するようになった。