ウクライナを巡るロシアの暴挙に、国際社会が非難の声を上げている。注目されるのがウクライナのゼレンスキー大統領の動きだ。ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所所長の服部倫卓さんが、ゼレンスキー大統領への国民からの評価について語った。AERA2022年3月14日号の記事から。
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ゼレンスキーはもともと人気コメディアンで、政治家や富豪、汚職を風刺するネタで注目されていました。とくに、テレビドラマでひょんなことから大統領に選出される教師を演じたのが、当たり役となりました。国民の中から「大統領になってほしい」という思いが自然と湧いてきました。
実際に大統領になったのは2019年。既存政治家とは一線を画し、大統領の座にしがみつかず5年の任期でやりきるといった姿勢で支持を集めました。
当初は、国民向けの演説の様子を見ても、コントの延長上のような感じもありました。ただ、ウクライナ国民は既成の政治家への不信感が強いので、政治経験がないことがむしろ人気につながったわけです。
ですが、いかんせん政治は素人ですので、就任1年ほどで支持率は低迷。ウクライナのような難しい情勢の国において、短期集中型で何かを変えるのは、難しいという雰囲気も漂いました。
そのさなか、ロシアの侵攻が始まりました。現時点でウクライナは予想以上に勇敢な抵抗を続けています。プーチンに屈しないという強い思いは、国民に共通しているでしょう。
士気の高まりの背景には、ゼレンスキーの振る舞いがあります。粛々と実務をこなして成果を出すというより、発信力を生かして国民に訴えかける劇場型の政治家。米政府に国外避難を呼びかけられても、キエフに残り国民とともに戦う姿勢を決然と示しました。動画ではたびたび「私はここにいる」と呼びかけます。こうした姿は国民に頼もしいと受け止められています。
つかんだのは国民の心だけではありません。欧州議会がウクライナの欧州連合(EU)加盟の努力を求める決議を採択するなど、ヨーロッパの人の心も動かしました。EUとウクライナはパートナー関係にありましたが、EU幹部が明確に歓迎を表明したのは初めてのことです。