日本のフェミニズムへのバックラッシュは、ある程度成功した。00年代、私は本当に自分の口が塞がれるような気持ちに、幾度もなった。私が区の講演会に呼ばれたときなどは、産経新聞に大きく「過激なフェミニストを税金で招くのはいかがなものか」という論調の記事が出された。別の区の女性センターに講演に行ったときは、女性センターの館長に事前に原稿と話す内容をチェックされたことがある。まだSNSは発展していなかったが、当時の2ちゃんねるで十分に誹謗中傷を受け続けた。そしてそれをどのように訴えていき、反論していけばいいのか分からなかった。
今、日本のフェミニズムが少し元気がある。バックラッシュの時代を知らない若い世代の女性たちが、おかしいことはおかしい、というまっすぐな声を発信しはじめている。むしろ今30代後半から40代の、00年代のバックラッシュ最中に若者だった女性たちが萎縮してしまっているかもしれない。だからよけいに思う。バックラッシュなどに負けてはいけなかったのだ。そしてもしかしたら来るかもしれない2度目のバックラッシュの時は、私たちはもう少し、うまく戦わなくてはいけない、と。
韓国のフェミニストとよく話すのは、日本と韓国の男性がとても似ているということだ。互いに憎みあい、軽蔑しあっているが、ミソジニーの度合いはとても似ている。「男」というだけで、高い下駄を履かせてもらい、「長男」というだけで、何か立派な存在であるかのような古い価値観を生きている男性も少なくない。少しずつ変わってはきているが、少しずつでしか変われず、変わろうと思うと変化を阻む力も大きくなる。一進一退、遅々として進まない気持ちにもなるが、それでも日韓の女性たち、フェミたちのつながりが今後より大切になるのではないだろうか。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表