作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、韓国大統領選とフェミニズムについて。
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韓国大統領選で保守系最大野党「国民の力」の候補が次期大統領に選ばれた。たった0.7%の僅差という勝利に、韓国に暮らす友人たちから絶望の声が届いている。反フェミニズムを掲げ、男女平等を積極的に推進してきた女性家族省廃止を公約に掲げてきた男性が大統領になるのは、やはり戦々恐々とすることだろう。
今年与党となる「国民の力」の党の代表は、イ・ジュンソク氏という30代男性だ。国政経験はないが、SNSの発信で20代30代男性の支持を集めて代表の座に就いた。彼もアンチ・フェミニズム的発言で男性の人気を得た政治家である。
例えば、交際を断られた男性がストーカーとなり、女性を殺害する事件が起きたときのこと。フェミニストは、その背景にあるミソジニー(女性嫌悪)を問題にする。女性を支配し、思い通りにならなければ罰を与えるように暴力を振るい、時には殺害する事件。日本でも、そのような事件を、私たちはいくつ知っているだろう。文化や国を問わず、ミソジニーが根深い国であればあるほど、この手の事件に私たちは「慣れて」しまっているのだ。
しかし、こういうときに、イ・ジュンソク氏はSNSで、「(ストーカーの男性が女性を殺すのは)個別の事件に過ぎない。フェミニズムのモノサシをあてはめるな」と発言し、「これはミソジニーだ」と怒るフェミニストたちの声を封じようとしてきた。彼の主張は、韓国では男女平等はなしとげられており、むしろ今の問題は男性への逆差別だ、という認識である。これは、今回次期大統領に選ばれたユン・ソクヨル氏も同様で、ユン氏も「構造的な性差別はない」と明言している。
また、今回ユン氏が公約に掲げた性暴力の誣告罪の新設は、性暴力問題に取り組んできた韓国のフェミニストにとっては到底容認できないものだろう。誣告罪とは、加害者を貶めるためにあえてうその告発をする者を罰する罪だ。現在も韓国の刑事司法には誣告罪があり、性被害が「簡単に訴えられる」というわけでは全くない。その上で性暴力の誣告罪を新設するということが意味するのは、自民党の杉田水脈議員の発言が思い出されるが、「女性はいくらでもうそをつける」という考えそのものだろう。