週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より
週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より

■カテーテルの普及により低侵襲な治療が一般的に

 心カテーテル治療はこれまでは、主に循環器内科の医師が治療をおこなってきたが、近年は心臓弁膜症に対する「経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)」、「経皮的僧帽弁接合不全修復術(マイトラクリップ)」、大動脈疾患に対する「胸部大動脈ステントグラフト術(TEVAR)」など、カテーテル治療の選択肢が増え、外科医との協力態勢で治療をおこなう病院も増えてきた。

 今回のチャートで取り上げたのは、心カテーテル治療のなかでも長年の実績がある「経皮的冠動脈形成術(PCI)」だ。「虚血性心疾患」という、心臓に栄養を送る冠動脈である血管の狭窄や詰まりを、金属製の網状の筒(ステント)や風船(バルーン)で広げて治療する。

 この患者は、職場の健診のたびにコレステロール値と血圧が「要注意」だったが、自覚症状がなく放置していた。しかし直近の健診で心電図の異常を指摘され、狭心症と診断された。

■PCIは侵襲性が低いが、再発率はゼロではない

 狭心症の治療法の選択は「シンタックススコア」で決められる。狭窄や閉塞している血管の部位や数、またその程度、症状などによって点数化し、そのスコアを基準に照らし合わせて、PCI、薬物療法、バイパス手術のどれを選ぶか、判断していく。症状が軽ければ数種類の薬物療法で対処できるが、あくまで対症療法に過ぎない。バイパス手術は根本的に治療できるが、からだへの負担が大きい。

 今回の症例では、狭くなっていた血管は1カ所だけで命に関わる大きな血管ではなかったため、低侵襲性を優先し、PCIを選択することにした。豊橋ハートセンターの木下順久医師はいう。

 「PCIは、狭くなった血管を広げる治療で、根本的に治すものではありませんが、近年、治療器具や血管内に留置する薬剤溶出ステントの性能が格段に良くなり、再発率は5%程度まで下がりました」

 それでも再発する人はいる。持病の生活習慣病のコントロールが悪い、きちんと薬を飲んでいない、たばこをやめない。このような人は、血管が詰まる原因がなくなっていないので再発するリスクが高い。福岡山王病院の横井宏佳医師はこう話す。

 「再発時のPCIでは、ステントは入れずに、薬剤溶出性のバルーンで血管を広げて治療しています。PCIでの再治療はせいぜい3回まで。生活習慣などを改善できずに、再発を繰り返す要因を持っている人には、バイパス手術を受けて根本的に治療することをすすめています」

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からだを切らずに検査ができるように