馬杉雅喜(ますぎ・まさよし)/1983年生まれ。京都出身、在住。東映京都撮影所で特機部に所属。28歳で独立し、(株)シネマズギックスを設立。2017年初の映画監督作「笠置ROCK!」がイオンシネマ系で公開。無類のキャンプ好き (撮影/小暮誠)
馬杉雅喜(ますぎ・まさよし)/1983年生まれ。京都出身、在住。東映京都撮影所で特機部に所属。28歳で独立し、(株)シネマズギックスを設立。2017年初の映画監督作「笠置ROCK!」がイオンシネマ系で公開。無類のキャンプ好き (撮影/小暮誠)

──一人でキャンプする坂本を演じていて、実際に「心の栄養」は感じましたか?

近藤:本物の焚き火の炎にあたっていますし、風や水の音、煙の臭いとか、いろいろなものが本物ですからね。その中に浸っていると、何か必要以上に肩に力を入れなくていいんだよ、あるがままに生きてくれていいんだよ、と、自然が言ってくれているような気がします。

 一方で、自然は扱いを怠ると怖いということも感じました。ロケ中に急に雨が降ってきたこともあったし、落雷が来そうなときや、風が急に強くなるときを体感してみて、自然の美しさや楽しさだけでなく、怖さとも付き合うのが人間の本来のありようなんだと思い出させてくれました。

──料理人を引退した坂本は、一人、キャンプ場で中華鍋を振るいます。無愛想な性格でセリフがほとんどない回もあるのに、抜群の存在感ですね。

近藤:セリフをしゃべらなくても、人の話を聞いている演技もいっぱいあります。また、今日寒いなあ、おなか減ったなあ、とか、あの人一生懸命しゃべっているなあとか、人間は言葉にしない思いがあったりする。しゃべるだけが演技というわけではなくて、役者は感じたり聞いたりすることも重要な職業なんです。

馬杉:近藤さんの演技は素晴らしかったです。坂本は偏屈な性格ですが、シーズンを通して、少しずつ感情がこぼれていきます。編集の段階で芝居の変化を見ていくと、近藤さんが1話だけのためでなく、シーズンを通してトータルで坂本の心の機微を計算していることがわかる。

 近藤さんはバイプレーヤーのイメージが強いかもしれませんが、僕にとっては、前からいつか一緒に作品を作りたい憧れの人。僕らの世代の求道者だと思っています。

近藤:そんな、求道者なんかじゃありませんよ(笑)。

──近藤さんが一番、印象に残っている回は?

近藤:和歌山編の第3話。温水洋一さんと一緒になったときです。

──温水さん演じる男性と「料理対決」する回ですね。二人ともほとんどしゃべらないのに、いつの間にか心が通じていく。

近藤:温水さんとはこれまでも何度も共演させていただいていて、監督からも息がぴったり合っていると言われました。お互い、相手がこう動いたらこっちはこう動く、というのが何となくわかる。彼の演じる男も、おそらく遠くにいる家族と会いたいという思いを抱えていて、坂本とお互い共感するところもあって。非常に印象深い回でした。

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