同じように肺炎を起こして入院治療を受けた場合でも、退院後に認知機能が低下するリスクは、新型コロナウイルスに感染した場合の方が、他の原因より高いことが、今年3月に米感染症学会雑誌オンライン版に発表された、米ミズーリ大学などの研究チームの報告でわかった。
研究チームは、米国の大手電子カルテ企業が提供する、14億件以上の医療情報を集めたデータベースを使って分析した。新型コロナウイルスで肺炎を起こし、米国内の病院110カ所に入院した1万403人と、年齢や性別、人種などが同じ構成になるように選んだ、新型コロナウイルス以外が原因で肺炎を起こした1万403人を比較した。
重症以外の患者も注意
肺炎による入院から30日目以降に認知症を発症した人は、新型コロナウイルスで肺炎を起こした人の中に312人(3%)いた。入院から認知症発症までの日数の中央値は182日だった。一方、新型コロナウイルス以外の原因による肺炎の人で認知症を起こしたのは263人(2.5%)だった。
高血圧や糖尿病といった持病の有無などの条件が同じになるように統計学的に調整した結果、新型コロナウイルスが原因で肺炎になった人の方が、それ以外が原因で肺炎になった人よりも1.3倍、認知症になるリスクが高いことがわかった。特に70歳よりも上の人にその傾向がみられた。
感染者は認知機能が低下する傾向にあることを分析した英オックスフォード大学などの研究チームの調査では、感染経験者401人のうち15人は入院治療が必要なほど重症化したが、それ以外は軽症か中等症だった。研究チームは入院した15人を除く386人と、未感染のグループも比較した。脳の容積や脳神経細胞の減少が大きい傾向は、重症以外の患者にもみられた。
熊本大学医学部血液・膠原病・感染症内科の松岡雅雄教授(ウイルス学)は、こう注意喚起する。
「重症以外の人でも脳に変化が起きているという点に、注意が必要です。さらに長期的な観察が必要ですが、重症以外の人でも、認知機能に何らかの影響が出る可能性があるかもしれません。脳への影響を防ぐには感染や重症化を防ぐことが第一なので、ワクチン接種が大切です」
(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2022年3月28日号より抜粋